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南相馬から未来へ走る。
自走式ロープウェイ「Zippar」が描く“次世代交通システム”のかたち
──Zip Infrastructure代表 須知高匡氏インタビュー

2026年01月09日

須知 高匡さん

Zip Infrastructure株式会社
代表取締役CEO

慶應義塾大学理工学部機械工学科卒。幼少期より乗り物と宇宙が好きで、大学では宇宙エレベーターの研究を行う。実現のためには資金面と技術面の両輪をクリアにすることが必要と気づき、2018年7月、Zip Infrastructureを設立し、代表取締役に就任。エレベーター並みにZipparを普及させ、世界中の渋滞を解消し、地球と宇宙の壁がなくなる未来を目指している。

福島県南相馬市に本社を置くスタートアップ、Zip Infrastructure。
同社が開発中の自走式ロープウェイ「Zippar(ジッパー)」は、バスや鉄道に代わる“新しい交通システム”として注目を集めている。
交通渋滞やバスの運転手不足、インフラの老朽化など、多くの都市が直面する交通の課題に対し、唯一無二の技術で解決を図り、まちの活力を取り戻す。その実現に向け、南相馬で新しい交通システム「Zippar」の開発を進め、社会実装を目指す代表の須知高匡氏に、開発の経緯と未来への展望を聞いた。

学生ロボコンや宇宙エレベーターの経験が、Zipparの原点に

―まずは、Zip Infrastructureの設立経緯を教えてください。

須知:
当社は2018年、私が大学3年生のときに大学発ベンチャーとして誕生しました。小さいころからものづくりが大好きで、大学時代は、学生ロボコンなどに参加し、ものづくりが社会の役に立つ可能性に強く惹かれました。その経験から、「自分たちの技術で社会の役に立ちたい」と考え、まずはメーカーから受託開発を行う会社として当社を設立しました。

―大学時代は宇宙エレベーターの研究もされていたとお聞きしました。

須知:
もともと乗り物や宇宙に強い関心があったのと、人とは少し違うことに挑戦したい、という考えがありました。宇宙と言えばロケットが一般的ですが、私は“宇宙へ垂直方向に移動する仕組み”が発展途上であることから、宇宙エレベーターに注目していました。その研究で培った垂直走行の技術が、今のZipparの“水平走行技術”の原型にもなっています。

―そのような中で、「自走式ロープウェイ」に着目されたきっかけは何だったのでしょうか。

須知:
宇宙エレベーターの研究で得た技術の応用先を探していく中で、社会の大きな課題として「バスの運転手不足」や「交通渋滞」があると考えました。そこで2019年より「自走式ロープウェイ」という技術をもって、新しい交通システムの開発に着手することを決めました。

Zip Infrastructure株式会社 代表取締役CEO 須知 高匡 氏

南相馬の広大な土地とスタートアップフレンドリーが、挑戦を広げた

―2024年に神奈川県秦野市から福島県南相馬市に本社を移転された経緯を教えてください。

須知:
もともとは秦野市でZipparを走らせる線路である“試験線”を開発していましたが、実装に近い形で試験線を敷設するためには、より広い場所が必要になりました。全国で候補地を探しましたが、なかなか場所が見つからず困っていたところ、南相馬市さんがぜひと受け入れてくださり、土地をお貸しいただけることになったのが、移転の大きなきっかけです。
2024年3月からは、南相馬市産業創造センター(MIC)に本社を置いていますが、ここはZipparを開発できる工場も併設されており、試験線の敷地までも車で5分程度と理想的な開発環境です。

“曲がるロープウェイ”で切り拓く、交通システムの新たな選択肢

―改めて、自走式ロープウェイ「Zippar」とは何なのか教えてください。

須知:
ひとことで言えば、「圧倒的に安く、圧倒的に早く」建設することができる「新しい交通システム」です。

現在の公共交通手段、特にバスを取り巻く環境が大変厳しく、深刻な運転手不足に直面しています。また、鉄道やLRT(※次世代型の路面電車のこと)は整備に多くの時間と費用がかかります。
Zipparは、そうした問題を根本から解決するために生まれた仕組みです。
たとえば、ZipparはLRTに比べ、整備コストを約3分の1に抑えられ、工期もLRTは数年かかるところを約1年に短縮できます。また、無人運転で走る“自走式”なので、運転手不足の問題もありません。これにより、Zipparは課題をクリアした新しい交通システムとして、コストを抑えてスピーディに実現できます。

また、Zipparは一見、観光地や山岳地にある既存のロープウェイによく似ていますが、両者には大きな違いがあります。
それは「曲がることができる」という点です。通常のロープウェイは、車両がロープごと動くため、カーブしたり分岐したりすることはできません。しかしZipparはロープが固定されていて、車両はモーター内蔵で自立して動くので、カーブも分岐も可能で、既存の道路に敷設できます。これは、Zippar最大の長所でもあります。

試験線での「Zippar」のイメージ。線路(ロープやレール)と車両がそれぞれ独立しており、車両内部にモーターやバッテリーを内蔵し、自走が可能。

Zipparの特徴。

―画期的なシステムですが、開発や実証の過程で苦労された点はありますか。

須知:
何より苦労したのは、開発場所を探すことです。まず試験線を敷設できる土地を見つけることが最大の課題でした。近年は「スタートアップフレンドリー」を掲げ、実験の場を提供する自治体も増えてきていると思いますが、私たちが調査した限りでは、「土木構造物である試験線を建設してよい」という自治体は南相馬市以外にありませんでした。南相馬市で利用させていただいている土地は従来の実験場より広く、スピードを上げての走行試験など、より実践的な検証も行えています。

─海外でもZipparのようなロープウェイを開発するスタートアップがあるそうですが、御社の取り組みは世界においても先進的なのでしょうか。

須知:
はい、ドイツ、ベラルーシ、アメリカに同様の開発を進める会社があります。ただし、1分の1の実運用サイズで、複数人が乗れる車両モデルを完成させているのは、現時点では当社だけです。土地の確保や補助制度など、開発を後押しする環境が整い、スピードの差が表れたのだと思います。

“福島発”を後押しする地域の支援と連携

―2023年度、2024年度に引き続き採択されている福島県の2025年度「地域復興実用化開発等促進事業費補助金(イノベ実用化補助金)」に関する事業計画を詳しく教えてください。

須知:
事業名は「自走式ロープウェイを中核とした低コスト・無人型新都市交通システムの開発」です。事業内容は大きく2つあります。ひとつは「試験線の構築」、もうひとつは「車両の設計および製作」です。本事業は採択から3年目を迎え、今年度(2025年度)は集大成として、試験線での車両走行のデモンストレーションを行える段階まで到達しました。

―計画には「国内外の交通弱者の解消・渋滞の緩和」が掲げられています。具体的にはどのような構想なのでしょうか。

須知:
バスの運転手不足により最も影響を受けるのは、自分で車を運転できない方々です。高校生や免許を返納した高齢者などが移動手段を失ってしまう課題を、無人運転のZipparによって解消したいと考えています。Zipparは、低コストで人口5万人程度の小規模都市から導入が可能と考えています。たとえば、今までバスに依存していた地域でも、Zipparを導入すれば、バス路線が廃止されても、人の移動に困りません。
また、渋滞対策という点でも、観光地など交通がひっ迫する地域において、補完的な交通インフラとして貢献できると考えています。
そして、海外では特に東南アジアなどの人口過密地域で交通渋滞が深刻化しています。低コストで導入できるZipparを海外展開できるよう、開発を進めています。

―補助金は自治体連携枠で採択されていますが、南相馬市とはどのように協力を進めているのでしょうか。

須知:
これまでも試験線建設の土地を貸していただくなど、南相馬市には多大なご協力をいただいてきました。今後は試乗会など、実際のZipparを体験していただく機会を増やして、成果を感じていただきたいと考えています。そして、その先には、この南相馬の試験線で市民の皆様に向けた試験運行を行いたいです。地域に根ざしながら、社会実装を一歩ずつ進めていきます。

―地域の方々の反応はいかがですか。

須知:
試験線は道路沿いにあり、地域の方々が日常的に目にできる場所にあります。最近では、近くに車を止めて見学される方がいたり、「これは何ですか?」と声をかけられたりする機会も増えています。「あれがZipparか」と実際の姿を目で見て、地域で新しい技術開発が進んでいることに希望を感じてもらえていたら、嬉しいですね。

道路沿いにある試験線の様子。

南相馬から世界へ──Zipparが描く交通の未来とは

―今後の計画について教えてください。

須知:
まずは南相馬市にある試験線で、日時を限定した営業運転を実施するのが目標です。南相馬市内でドローンの実験が行われているように、Zipparもまた限定的な運行を重ねながら、法的な整備や安全基準の検証を進めている段階です。

その次のステップが、2028年までに予定している空港や公園、大規模工場などの「公道以外での運行」です。すでに複数の事業者や空港からお声がけをいただいており、限定空間での実用化計画が進行しています。

そして最終的には2033年に「公共交通」として公道上を走行することを目指しています。

―浜通り地域での連携については、どのような構想をお持ちですか。

須知:
試験線の建設では、南相馬市の石川建設工業さんに工事をお願いしており、地元企業の協力なくして実現しませんでした。そして、我々スタートアップ同士は連携も盛んで、日常的に情報交換をしています。今度、投資家向けの試乗会を開くのですが、汎用人型重機の開発を進める「人機一体」や、「宇宙開発で “Japan as No.1” を取り戻す」をビジョンに掲げるスタートアップ AstroX「AstroX」、空飛ぶクルマの開発を手掛ける「テトラ・アビエーション」の各工場見学もあわせて実施する予定です。今回は当社主体で進めましたが、来年以降は、福島イノベーション・コースト構想推進機構にも協力をお願いしながら、地域全体を巻き込む形で情報を発信し、“浜通り発の技術”を育てていければと思っています。

―地域との連携などもふまえて将来の展望をお聞かせください。

須知:
これまでも福島県内の多くの地元企業にお世話になっていますが、今後は開発部品などの調達でも、地域内での連携をさらに増やしていきたいです。人材面でも、地元からの採用をもっと増やしたいと考えています。すでに地元出身の社員もいますが、今後は高校や大学と連携して、この地域から人材を育てていきたいですね。

南相馬市は「環境未来都市」を掲げられていますが、実際に“未来を感じさせる町”だと思っています。たとえば、ファミリーレストランで料理を運ぶネコ型ロボットがいち早く登場していたり、ホテルではペットロボットが出迎えてくれたり、とテクノロジーが町に自然に溶け込んでいる。当社もその一翼を担う存在となりたいです。

東北地方は、人口数十万の都市が多く存在します。そういった都市でバス路線が廃止されると、どんどん人の往来がなくなって活気がなくなってしまいます。仙台で生まれ育った私としては、Zipparを実現し、地元に元気をもたらせるような存在になれたら、と思っています。

(取材日:2025年10月3日)

Zip Infrastructure株式会社

Zip Infrastructure株式会社は、新たな交通システムである自走式ロープウェイ「Zippar(ジッパー)」の開発を行う企業。慶應義塾大学発のスタートアップ企業として 2018年7月20日設立。2024年3月に福島県南相馬市に本社及び研究開発拠点を移転。

福島イノベーション・コースト構想推進機構による支援:
2023年度、2024年度、2025年度 福島県 「地域復興実用化開発等促進事業費補助金」採択(事業計画名:自走式ロープウェイを中核とした低コスト・無人型新都市交通システムの開発)

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