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ウェルビーイング

良質なアウトプットを生み出すため。ココロとカラダ、個人と組織の「幸せ」のマネジメント集

「世界初」へ。医学を進歩させ、個人の健康管理をアップデート。川俣町から、フェムテックの新時代を切り拓く
――髙橋くみ氏(Bé-A Japan(ベア ジャパン)代表取締役CEO)

2023年05月08日

髙橋 くみさん

株式会社Bé-A Japan 代表取締役CEO 株式会社V Holdings 代表取締役Co-CEO

ロンドン大学卒業後、外資系映画会社、外資系アパレル会社を経て、2009年にウェルネスブランドを展開するMNC New Yorkを友人と設立。2020年にはBé-Aを創設し、クラウドファンディングで資金を集めて、フェムテック商品「超吸収型サニタリーショーツ Bé-A〈ベア〉」を開発、販売。同品は2年半で累計枚数約12万枚のヒット商品に。2022年、両社のグループ経営会社移行にあたり、ホールディングスカンパニーのV Holdingsを設立、共同代表に就任。現在は家族の住むアメリカ・ロサンゼルスと東京、川俣町を行き来する日々。

ショーツ自体が経血を吸水し、生理用ナプキンなしで1日を安心して過ごすことができる。漏れない。蒸れない。さらに、使用することで環境配慮につながる――。そんな女性にとって夢のような製品を掲げ、一躍、フェムテック市場の最前線に躍り出た「株式会社Bé-A Japan(ベア ジャパン)」。手を結んだのは福島県川俣町と、同町でウェアラブルIoT製品の研究開発と生産を行うミツフジ株式会社だ。目指すのは世界初※1となる「経血量を測定できる吸水ショーツ」の実現だという。いったいどんなインパクトを社会にもたらすのか。そして、なぜ「川俣町」なのか。Bé-A Japan福島支店に髙橋氏を訪ねた。

「生理の悩みを解決したい」。ミツフジ株式会社・川俣町と連携

―川俣町に支店を開設して、研究・開発を進めているそうですね。


髙橋:
はい。「経血量を測定できるショーツ」の共同開発を進めるミツフジ株式会社が川俣町に福島工場を構えていて、その一画をお借りして支店を開設しました。研究・開発にあたっては、計測・検証結果をすばやくフィードバックできる環境が必要ですし、川俣町の住民の皆さんに実証実験にご協力いただける中で、最前線の現場にオフィスを開設できたことに感謝しています。


―女性の活躍を推進するには、フェムテック(Female×Technology)、つまり女性特有の課題を解決する技術やサービスを進めることが不可欠だとし、国も数年前からこの分野に力を入れています。開発中の「経血量を測定できる吸水ショーツ」は、世界初※1の画期的な製品とも伺っています。どのような特徴があるのでしょうか。


髙橋:
女性の経血を吸水するショーツに「経血量」を計測できるセンサーを埋め込み、その結果をスマートフォンのアプリに送るという製品です。ベースとなるのは、当社が開発した「超吸収型サニタリーショーツBé-A〈ベア〉」の吸収体(液体を吸収する部分)です。そこにミツフジが独自開発した導電性の(電気を通しやすい)繊維「AGposs®」を張り巡らせます。この繊維は優れた導電性(電気を通しやすい性質)があるため、これがセンサーとなって経血量が測定され、腹部につけたトランスミッター(送信部)からアプリにデータが送られるという仕組みです。


使用者は1時間ごと、1日ごとの経血量を確認できるため、「普段はどれくらいの経血量なのか」を把握し、「普段より多いのか、少ないのか」を正確に判断することができます。女性のための「ショーツ型ウェアラブルデバイスの開発」は世界初の試みですし、経血量データを蓄積することで、女性の生理に関するビッグデータも取得できます。もちろん測定には安全を期しているので、ご安心ください。経血量を測定する際に用いる電流は、体組成計などで体脂肪を測るときに通す電流よりも少ない量がほんの一瞬、通るだけ。痛みや違和感を覚えることもありません。

吸収体(液体を吸収する部分)に張り巡らせた銀めっき導電性繊維「AGposs®」で1時間ごとに経血量を測定する「超吸収型サニタリーショーツ Bé-A〈ベア〉」。計測結果は、スマートフォンのアプリで把握できる

―ベースにあるのは、御社の「吸水ショーツ」なのですね。そこから、どのような経緯で「経血量を測定する」というコンセプトが生まれてきたのでしょうか。


髙橋:
当社の創業背景とともにご説明します。当社は2020年3月に創業し、同年7月に「Bé-A〈ベア〉」を発売しました。「Bé-A〈ベア〉」は、ショーツ自体が約120ml~150ml※2の経血を吸水し、生理用ナプキン(以下、ナプキン)を交換するタイミングや漏れを気にすることなく、1日を安心して過ごしていただけるという製品です。世界最高レベルの吸水量を誇り、また蒸れにつながる吸水性ポリマーを使っていません。特許を取得し、おかげさまで累計枚数は12万枚に上りました。


発売開始以降も、改良のために利用者の生の声を聞いているのですが、その中で気づいたことがあります。そもそも、ほとんどの女性は「自身の経血量がどのくらいなのかを知らない・・・・」ということです。当社のショーツが約150ml※2を吸水するといっても、実際のところ、吸収量が50mlなのか120mlなのか、正確な数値は分からないのです。


さらに、発売から1年ほど経ったころに、愛用者のお一人からこんな言葉を頂きました。「多い日用の『Bé-A〈ベア〉』ショーツをずっと問題なく使っていたのに、ある日突然漏れてしまった。何かがおかしいと思って婦人科に駆けつけたところ、10cmほどの子宮筋腫が見つかった」と。その方の感覚が鋭敏だったことで発見につながりましたが、ここから私は「経血量は女性にとって健康状態を知るバロメーターになる」ことを学びました。だからこそ女性はもちろんのこと、性別に関係なく、生理や経血量は深く知っておくべきもの――そう考えるきっかけになりました。


ここから「経血量を測定できるショーツ」の開発を着想し、その方法を探る中で巡り合ったのがウェアラブルIoTの高い技術をお持ちのミツフジ株式会社だった、というわけです。


ミツフジは、着るだけで体の状態が分かる「ウェアラブルデバイス」を展開している企業です。導電性に優れた銀繊維をセンサーにして、脈拍や血圧、体温などの連続したデータを正確に取得。このデータを解析するアルゴリズム開発に特化していることから、自治体での健康促進事業など、社会課題の解決に向けた次世代ヘルスケア製品の開発にも取り組んでいます。その存在を知り、すぐに面談を申し込みました。


―お話をされて、ミツフジの反応はいかがでしたか。


髙橋:
「一緒に取り組みしょう」と、うれしい言葉をいただきました。代表取締役社長の三寺さんは、着衣のまま心電図のデータをとるというイノベーションを起こされた方ですから、世界初の挑戦に向けてポジティブな志を共有できたのだと思います。ミツフジが持つテクノロジーと融合することで、「経血量を測定できるショーツ」の実現に明るい未来が拓かれました。


―では、どうして支店を川俣町に開発されたのでしょうか。


髙橋:
開発には実証実験が欠かせませんが、取得するデータは、年齢や仕事など、さまざまな属性の方々にご協力いただきたいのが本音です。ただし私たちのようなスタートアップでは、どうしてもコンタクトできる層が限られてくる……そこで支店開設の報告や実証実験への住民の協力を依頼するため、川俣町の藤原町長を訪ねました。


趣旨をお伝えしたところ、町長はじめ、職員の皆さんがすぐにその意義を理解してくださったことに、とても驚きました。理解していただいこと自体もそうですが、何より、納得いただくまでの時間が本当にわずかだったのです。こうした仕事をしているからこそ日々実感しますが、生理の話は、男性には敬遠されることが多いので……。川俣町における、女性活躍に関する取り組みは本当に素晴らしいと思います。方針を打ち出して終わりではなく、まちぐるみで理解し、浸透を目指していらっしゃいます。


たとえば、経済的な理由で生理用品を購入できない女性や女児の問題(生理の貧困)が町議会で議題に挙がり、実際に生理用品の無料配布にも取り組んでいるそうです。また、東日本大震災の際には、川俣町には住人の3倍にあたる45,000人が避難して来たものの、生理用品の備蓄がなくて非常に苦労されたというお話も聞きました。このためもあってか、すぐに「ぜひとも」と言ってくださったのでしょう。2022年6月に支店を開設したのと同時に、川俣町、ミツフジ、当社は、開発を共に進める三者協定を締結することになったのです。


また、この協定と同時期になりますが、2022年度の福島県「地域復興実用化開発等促進事業費補助金」に採択され、福島イノベーション・コースト構想(福島イノベ構想)にも参画できました。強力な力添えのおかげで、研究開発のスピードも加速。申請が通ってすぐに「福島イノベーション・コースト構想推進機構」(福島イノベ機構)の担当者からご連絡があり、さまざまなアドバイスをいただいています。「経血量を測定できるショーツ」は世界初※1の試みなので、クリアすべき課題も少なくありません。たとえば、特許や知的財産の管理をどうするか。福島イノベ機構にその領域に強い弁理士事務所をご紹介いただくなど、研究開発やビジネス化に向けた多様なフェーズで、具体的な心強いアドバイスをいただき、感謝しています。

個人の健康管理と人類の進歩。婦人科領域をアップグレード

―「経血量を測定できる吸水ショーツ」がもたらす意義を、もう少し詳しくお教えください。そもそも「生理」は、個人の暮らしや社会にとって、どんな課題があるのでしょうか。

髙橋:
現在では、タンポンや月経カップがよく知られるようになってきました。とはいえ、日本をはじめアジアの女性の約9割は、ナプキンを使っています。人類が火星を目指す時代にあってなお、60年前から変わらず、「吸収させて捨てる」という手法をとっているわけです。

これはまず、環境に大きな負荷を与える点で問題です。ナプキンは、大半の製品が原料にプラスチックを含んでいます。女性は、生理がある約40年間で、1人あたり約12,000枚のナプキンを使い捨てるそうです。環境汚染や資源の枯渇が問題になっている中で、これだけの量のプラスチックを捨てている事実を見過ごすわけにはいきません。

さらに、精神的なストレスや経済損失を生み出す点でも問題があります。ナプキンは交換頻度が高く、一度の交換で半日持たせることが難しいという実情があります。当社の調査では、女性の86%が「ナプキンを替えられずに困った経験」があり、81%が「経血漏れで嫌な経験をしたことがある」と答えています。働く女性にとっては、「長引く会議で漏れが気になり集中できなかった」「ばれないようにトイレに行くのがストレスだ」といった話も挙げればきりがありません。生理に伴う症状による経済損失は年間4,900億円超※3と試算されていますが、その中にはナプキンに起因する損失もあると考えられます。

―そういった課題に対して開発されたのが、「Bé-A〈ベア〉」ですね。

髙橋:
はい。当初、開発資金をクラウドファンディングで調達したのですが、目標金額は100万円、できれば1,000万円ほどのご支援を目指しておりました。ですが嬉しい誤算で、3日間で1,000万円を、最終的には1億円を超えるご支援をいただくことができました。それだけ多くの女性たちが、生理の悩みに「解決策」を求めている。大きな期待と責任を感じると同時に、「Bé-A〈ベア〉」で悩みを解決できたというお声を聞くたびに、やりがいを実感しているところです。ただその一方で、先ほど申し上げたように、私自身を含めて「自身の経血量を把握できていない」という問題に気づいたのです。

―たしかに、「多い」とか「少ない」とか、感覚的な表現がほとんどですよね。では、経血量が分かることで、どんなメリットが生まれるのでしょうか。

髙橋:
大きく2つあると考えています。一つには、「個人の健康管理」に役立つことです。繰り返しますが、経血量は病気や不妊のリスクを知る手掛かりになります。長期的に測定することで、1周期や2周期では見えないことも見えてくると予測しています。

そしてもう一つには、経血量に関するビッグデータを取得することで「医学の進歩」に貢献できることです。たとえば、正確なデータがあるわけではないのですが、「黒人の女性は白人の女性より経血量が多い」といわれています。一方で、実際に黒人女性のほうが白人女性よりも約3倍も子宮筋腫になりやすいというデータが存在します。でも、経血量との因果関係は定かではありません。誰も量ったことがないからです。人種別、体形別、年齢別で経血量がどう違うのか、それが婦人科疾患とどう関連するのか、大規模データは存在していません。つまり、まだ人類がこれまで手にしたことのないデータを、今まさに私たちはつかもうとしているわけです。医療にとって、私たちの暮らしにとって、とても大きな、ポジティブなインパクトを及ぼすものと信じています。

―確かに、とても貴重なデータです。

髙橋:
初潮年齢の早まりや出産回数の減少などにより、現代に生きる女性が生涯に経験する生理の回数は100年前の9倍にあたる、450回に増加しているといわれます。生理によって毎回、子宮内膜がはがれ落ちているわけですから、子宮内膜症のリスクも高まっています。それだけ“子宮が酷使される時代”になったのです。生理を客観的に捉えることができるこの製品の開発は、大きな意義があると思います。

「生理だから……」と諦めることのない社会の実現へ

―世界初※1となる「経血量を測定できる吸水ショーツ」の開発状況をお聞かせください。

髙橋:
川俣町民と、都内の企業に勤める女性を対象に、実際に身に着けていただく実証実験を行い、2023年2月に終了したところです。結果を基にさらに改良し、今年の夏から量産実験に入る予定です。

―実証実験の参加者は、どのように集められたのですか?

髙橋:
最初に「生理セミナー」を開催しました。そこで活動をご理解いただいた方や「Bé-A〈ベア〉」を使ってみたいという方に、実証実験に参加していただきました。参加者は、全部で200名ほど。そのうち川俣町では6~7回ほどセミナーを行い、100名ほどに参加いただき、実証実験の参加者は約半分の50名です。同様に、都内の提携企業からの実証実験の参加者は、150名ほどです。

川俣町におけるセミナーの設定や実証実験への参加呼びかけは、行政に協力いただきました。おかげさまで実験には、20歳代~50歳代の幅広い世代の方にご参加いただき、さまざまな属性の非常に貴重なデータを取得することができました。たとえば、更年期前後で経血量がどのように変化するのか。今回、40歳~50歳代の方にもご参加いただけたおかげで、他にはない発見を得られたと考えています。

―川俣町との良好な関係をうかがい知ることができます。

髙橋:
ありがたいことです。先日は川俣町に合計300枚の吸水ショーツを寄贈させていただきました。100枚は備蓄用に、100枚は済生会川俣病院で医療従事者に使っていただき、残りの100枚は、教育委員会を通じて学校で使っていただく予定です。学校の保健の先生にも生理のお話をする機会を設けていただくなど、一連の活動がスムーズに進んでいます。川俣町は震災後のご経験があるからか、何事においても新しいことを受け入れるという気質があるように感じます。

―「世界初※1」の研究開発、そして製品が川俣町から生まれるのですね。

髙橋:
はい。私たちは、「生理だからといって、諦めることのない社会をつくりたい」と考え、製品開発に取り組むと同時に、生理セミナーなどの啓発活動を通じて多くの方々に生理の知識を持ってもらう取り組みも進めています。生理セミナーは、小学校から大学まで、それこそ男子校でも開催していますが、実は企業向けのセミナー実施は川俣町の企業が初めてでした。このエピソードだけでも、進取の精神に富んだ川俣町の風土をご理解いただけると思います。新しいことを取り入れ、自ら生み出そうとしている。その熱量を、私たちは世界に知ってもらいたい。この流れを加速させ、“世界初※1”の実現を目指していきたいと思います。

※1:2022年10月Be-A Japan調べ
※2:公的検査機関のデータを元に算出
※3:出典Tanaka E, Momoeda M, Osuga Y et al. J Med Econ 2013; 16(11): 1255-1266

Be-A Japan

Be-A Japanは、「Girls be ambitious. 望めば変わる。人生も、世界も。」をコンセプトに、女性をはじめ、すべての人の心身の健康と活躍を応援しています。これまで不便を感じることの多かったサニタリーライフにおいて、その期間のニーズに寄り添う高い機能性を備えた新たな選択肢として、超吸収型サニタリーショーツブランドBé-A〈ベア〉を提案。多様化する女性の生き方をエンパワーし、サステナブルなものづくりと消費が求められる現代社会への貢献をめざしています。