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未来テクノロジー

テクノロジーが拓く、豊かな未来。挑戦し続ける人と企業をクローズアップ

火力発電所の石炭灰を使ったリサイクル資材で 浜通りの地域の復興と、雇用創出を目指す

2021年02月25日

横田 季彦さん

福島エコクリート株式会社 代表取締役社長

兵庫県出身。大阪市立大学工学部土木工学科(現都市工学科)卒業後、日本国土開発株式会社に就職し、技術研究所コンクリート研究室配属。入社10年目に技術士(建設部門)、5年後には博士号(工学)を取得。2015年、日本国土開発株式会社執行役員。2018年より福島エコクリートプロジェクトを担当し、同年代表取締役社長に就任。2020年日本国土開発株式会社専門役、大阪市立大学非常勤講師。

石炭火力発電が日本で最も多い地域をご存じだろうか。答えは、福島県。太平洋岸に4つの石炭火力発電所が並び、北海道の3倍近い640万キロワットの発電量を誇る。火力発電所で発生する燃えがら「石炭灰(フライアッシュ)」も多く、日本全体の約20%を占め、こちらも全国1位。この石炭灰を主原料に人工砕石「ORクリート」を製造しているのが、福島エコクリート株式会社だ。代表取締役社長である横田季彦(すえひこ)さんを訪ね、設立までの経緯、果たすべき役割をお聞きした。

復興事業をバックアップする
世界最大級のリサイクルプラントが誕生

震災から10年がたち、復興が進む福島県浜通り地域。建設工事などに欠かせない骨材(コンクリートなどを作る材料としての砂利や砂などのこと)として使われる砕石の需要も同様に伸びている。砕石は、山などを崩して採取する「天然砕石」や、解体した建物などのコンクリート片から再利用する「再生砕石」がある。しかし、浜通り地域ならではの事情がことを困難にする。

「山の除染は、のり面(山のすそ、林縁)から20mの範囲に限定されています。天然砕石の採石場を開発するとなると除染対象外も含まれるため、山を崩すことで蓄積された放射性物質を再放出してしまう危険があります。また、都心部では再開発事業で再生砕石が生まれますが、浜通り地域には対象となるコンクリート構造物がそもそも少なく、あったとしても、コスト面から解体しないまま別の場所に建築することが多いんです。結果、骨材不足による流通単価の高騰を招いています」と、横田さんが説明してくれる。

「そんな骨材不足の解消として期待されるのが、石炭灰を再利用した『人工砕石』なんです」と続ける。

石炭灰は天然の化石燃料を燃やしたときに生まれるため、自然の土壌や岩石類に近く、環境負荷が少ない。また、日本の電力構成の約33%が石炭火力発電で、特に福島県には、相馬共同火力発電「新地発電所」、東北電力「原町火力発電所」、JERA「広町火力発電所」、常磐共同火力「勿来(なこそ)発電所」と4つの火力発電所があり、国道6号線を車で走っていると、火力発電所の煙突を目にする。発電量も多く、石炭灰の排出量は、1日240トンに達する。

この環境を生かし、石炭の調査研究などを行う一般社団法人石炭エネルギーセンター(JCOAL)、横田さんの出向元である日本国土開発株式会社、相馬市で相双地区復興生コンの中心的役割を担った新和商事株式会社の3社が出資し、2016年3月、「地域の雇用創出」「復興事業への土木資材の提供」「石炭灰のリサイクル」の3つの柱を掲げ人工砕石を作る福島エコクリート株式会社が設立。2018年4月に製造がスタートした。

敷地面積は3ヘクタール。石炭灰を有効利用する製造プラントとしては日本最大級の施設

「日本の石炭灰のリサイクル技術は世界トップクラスなので、世界最大級のリサイクル工場と言っても過言ではありません」と話す横田さんの言葉が力強い。

環境に優しく、高品質な人工砕石
産業廃棄物の地産地消を実現

福島エコクリートで生産している人工砕石は、「ORクリート」という名称が付いている。これは、地元の小高産業技術高校の生徒からネーミングを募集し、採用したもの。「Odaka(小高) Revive(復興)クリート」の意味で、Rには「リサイクル」の意味もかかっている。「Revive(復興)という言葉は私たちでは思いつかなかったかもしれません。この浜通りで事業を行う意味を改めて考えさせられました」と横田さん。

ORクリートの特徴を一言で表せば、「一般的な石と比べて軽い」ということ。「専門的用語を使えば、一般的な石のかさ比重が1.6なのに対して、ORクリートは1.2になる。例えば、ダンプ輸送した場合、同じ重さを積んだとしてもORクリートは軽いので、1.3倍の体積量を積むことができる。そのため、工事期間中のダンプの台数を減らすことができ、工事コストの削減につながる。さらに、CO2(二酸化炭素)やSOx(硫黄酸化物)、NOx(窒素酸化物)も減り、環境にも優しい。

重さは釣り合っているが、右の「ORクリート」の量が多いことが分かる

同社では、原町火力発電所から年間4.5~5万トン、広野火力発電所から年間1.5~2万トンの石炭灰を受け入れ、約9万トンのORクリートを製造している。品質が安定していると、評価も高い。

石炭灰を保管するサイロ。80段の外階段を上ると屋上に出られ、天気が良いと原町火力発電所の煙突が見える

成形されたブロック状の「ORクリート」は、2日間ほど乾燥。スタッフの一條さん、福留さん、菊池さん(左から)が品質を細かく管理

一次ストックヤードで1週間ほど養生させ、2種類の粉砕機で40mm以下に粉砕。ベルトコンベアでストックヤードに運ばれる

製造されたORクリートは、「道の駅なみえ」にある駐車場のアスファルト舗装の下に敷く路盤材や、常磐自動車道の擁壁工事、南相馬市にあるメガソーラー発電所の基礎材など、さまざまな場所で利用されている。また、ORクリートはpH(ペーハー)9〜10とアルカリ性なので、草が生えにくい特性もある。ある太陽光発電施設では、施工後1年がたっても雑草が目立たず、草刈りの手間を削減できた。

ORクリートは、地元の石炭火力発電所から発生した石炭灰を主原料に作られたリサイクル資材であり、産業廃棄物の「地産地消」を実現したとして、2019年4月に「うつくしま、エコ・リサイクル製品」に認定された。

被災地復興の鍵は、地元の人間にあり
誇りとやりがいを感じられる職場へ

福島エコクリートで働く社員の多くが、震災や原子力事故によって避難を余儀なくされた南相馬市などの地元出身者だ。同社は「相双地区の人による、相双地区のための、相双地区の会社」だと話す横田さんの思いを聞いた。

ごく一部だと思うけれどと断ったうえで、復興事業の中には、補助金を目当てに被災地に進出する福島県外の企業もあり、ある程度の収益を得ると解散してしまい、地元で採用した従業員が路頭に迷ってしまうこともあると言う。

「私としては、東京から出向してきた社員が中心になるのではなく、できるだけ地元出身の社員が、プライドと自信を持って仕事に取り組んでもらいたいと考えています。私も出向者なので、他部署への異動があるかもしれません。また、私以上に事業に思い入れがあり、石炭灰について詳しい人間が社長になることはないと、あえて言っています(笑)。だから、私の知識やノウハウを吸収し、成長してほしいですし、地元の社員を中心に事業が継続していくことを期待しています」

取材中、2019年に入社した太田竜聖さんに話を聞くことができた。

南相馬出身で、小高産業技術高校産業革新学科を卒業。先輩の門馬さん(写真右、中)と堀川さん(同、左)の指導を受けながら勉強中

「ジェットパック車で1日何回も搬入される石炭灰を1台ごとに少量抜き取り、検査装置や試薬を使い成分を分析しています。ORクリートの品質を均一にするため、分析結果をもとに工場で混ぜる材料の配合を決める大切な仕事なので責任も重大ですが、やりがいも感じています」

小学3年生のときに被災した太田さんは、その後も南相馬市で暮らしてきた。人の温かさ、豊かな自然に恵まれたこのまちを、ずっと大切にしていきたいと話してくれた。

これを見てくださいと横田さんが差し出した自社パンフレットには、避難解除後に帰還し、入社した6名の社員が登場し、地元の復興に携われる喜びが語られていた。「県職員の方から、『被災地での住民帰還に結びつきました』と喜ばれたんですよ。社内結婚し、子どもが生まれた社員もいて、人口増にも貢献しています(笑)」と、うれしそうに笑う姿が印象的だった。

人工砕石のさらなる可能性を広げ
浜通りを牽引するトップランナーでありたい

国内の石炭灰の約70%がセメントの原料として利用される。一般的にセメントを1トン作るためには200~250kgの粘土が必要で、この粘土の代わりに石炭灰が代用されている。今後、公共工事の減少に伴いセメント需要が減少すれば、石炭灰の利用も減っていくのは明らかだ。今後はどのようなビジョンを描いているのだろうか。

「今は、除染した土壌や廃棄物の中間貯蔵施設の建設といった復興関連事業があり、ORクリートの需要は見込めます。しかし、復興工事の減少に備え、新たな活用先を見つけるためにさまざまな可能性を模索しています」

「例えば、農業分野への利用として、ORクリートを人工湿地や人工干潟の一部に取り入れ、堆積した汚泥を吸着、ろ過する水質浄化材として使えないか検討中です。現在は火力発電所からのみ石炭灰を回収していますが、製紙会社などの一般事業者から排出される石炭灰を活用できないかも検討しています」

試験室に集められたさまざまな素材を使い、新たなビジネスのヒントを探る

石炭をガス化することで、従来の石炭火力よりも高効率な発電ができる次世代発電システム「IGCC(石炭ガス化複合発電)」が注目を集めている。日本のIGCC発電所から発生するスラグ(燃えがら)の90%以上が今後福島県内で発生することに着目し、事業化を進めている。

SDGs(持続可能な開発目標)の実現にも積極的で、福島エコクリートの人工砕石技術は、2020年度の「資源循環技術・システム表彰」の奨励賞に選出されるなど、同社への期待はますます大きくなっている。

「福島イノベーション・コースト構想が推進する主要分野のうち、『環境・リサイクル』分野のトップランナーとして、浜通り地域の復興に貢献していきます。長期的には、地元出身の社員が中心となって、この会社を運営していけるようになるのが目標です」

石炭灰のリサイクル事業を通じ、浜通り地域の雇用を創出する福島エコクリート。復興とは、建物や道路などを元通りにするだけでなく、やりがいや誇りを持って働く人たちの存在が欠かせないことを教えてくれる。

福島エコクリート株式会社

福島県イノベーション・コースト構想の一環として、「浜通りの雇用創出」「復興事業への土木資材の供給」「福島県内の石炭灰のリサイクル」を目的として、2016年南相馬市に設立。地元の石炭火力発電所の石炭灰を使った人工砕石「ORクリート」を製造する。産業廃棄物のリサイクルや循環型社会の実現だけにとどまらず、地元の雇用創出にも大きく貢献している。