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リーダーシップ

福島発のイノベーションを先導し、次なる時代を創るリーダーたちの想いに迫ります

美容界のトップランナーが、いわきで開業「場所じゃない。大事なのは、楽しむ気持ち」

2020年02月07日

小松 伸満さん

株式会社slow and sure代表取締役・『SLUNDRE』代表

1981年、福島県いわき市生まれ。福島県立湯本高校卒業後、日本美容専門学校を経て東京・代官山のヘアサロン『8 1/2 eight&half』入社。店頭に立つほか国内有名ファッション誌のヘア企画や、『CHANEL』ほかハイブランドのファッションショーに参画。2009年、同アトリエ店店長に就任。若手育成にも尽力。2014年、妻でありヘアスタイリストでもある作山友紀氏と共に福島県いわき市に帰郷し、ヘアサロン『SLUNDRE』を開業。以降、福島県の美容分野の発展をリードしている。2019年には『TOKYO HAIRDRESSING AWARDS』クリエイティブデザイン部門に2作品がノミネートされた。

大都市圏を舞台に活躍する中で、故郷である福島に戻る道を選ぶ人がいる。県外での飛躍を約束されながらもあえてこの地にとどまる人もいる。彼らは何を想い、どんな将来を描いてこの選択をしたのか。自らが光り輝くことで、その道の先を照らし出す「地元の星」に聞いてみよう。初回は、ヘアサロン『SLUNDRE』を運営するいわき市出身の小松伸満さん(株式会社slow and sure代表取締役)を訪ねた。

地方にすごくカッコいいサロンを
創ったら面白いんじゃないか

2019年8月、いわき市の美容師・小松伸満さん(ヘアサロン『SLUNDRE』代表)が快挙を成し遂げた。国内最難関のヘアデザインコンテストのひとつである『TOKYO HAIRDRESSING AWARDS』の、2019年大会クリエイティブデザイン部門において、見事、最終ノミネート作品に選ばれたのだ。ノミネートされるだけでも極めて難しいといわれる狭き門を、小松さんは3点応募し2点通過させることに成功した。妻であり同店のヘアスタイリストでもある作山友紀さんの作品も、同大会リアルデザイン部門にノミネートされた。

技術に境界線は存在しない。働く場所に関係なく存在感を発揮できる。そう教えてくれる偉業といえる。

光がそそぐ開放的な空間。「福島県内の建築家に意匠設計してもらい、県産の木材を利用」しているという

『SLUNDRE』は、いわき市の鹿島地区にある。全面ガラス張りの三角屋根に広々としたウッドデッキ。「突き抜けたヘアサロン」というコンセプトの通り、独創的かつ印象的な店だ。

オープンは2014年。実はこの開業自体、当時の業界をざわつかせたものだ。小松さんはいわき市出身だが、そのときは東京・代官山の有名ヘアサロン『8 1/2 eight&half』の店長を務めるトップランナー。その小松さんが独立すること、しかも、同じく都内の有名サロン『DaB』トップスタイリストの妻・作山さんと、『ULTRA C』のトップスタイリストだった茅野友希さんの3人で開業するというのだ。加えてその場所が、東日本大震災の津波災害の爪痕が残るいわき市だという点も、大きな話題を集める要因となった。

「あの3人が、いわきでいったい何を始めるんだ? と、たくさんのメディアが取材に来てくれました」(小松さん)

目指すならNo.1。入社6年目で人気店の店長に

そもそも小松さんが美容師の道を志したのは、高校生の頃だという。

「中学時代までバレーボール一筋で、坊主頭しかしたことがなかったんですが、オシャレな友人に紹介されて、初めて美容院に行きました。そうしたら美容師がおしゃべりをしながら髪を切っている。映画監督や建築家にも憧れていたのですが、人と接することも好き。美容師なら、クリエイティブな仕事をしながら会話も楽しめる。自分に向いていると確信しました」

負けず嫌いを自認する小松さん。どんなことでも、やるからには№1を目指し全力を傾ける性格だとも。美容師になると決めたからには業界トップを目指そうと、実績のある東京の美容学校に進学。卒業後は『8 1/2 eight&half』に入社し、修業に邁進した。結果、6年目には並み居る先輩を追い越して店長に就任。

一方で、CHANELなどのハイブランドのコレクションショーに参加してスーパーモデルを担当するほか、雑誌やヘアショー、セミナーなどにも活躍の場を広げた。

ちなみに、東京で同郷の友人と会うことはあったのだろうか。

「とにかく忙しかったし、駆け出しの頃はみんな自分の道でがんばっていたので、なかなか会う機会がありませんでした。それに、新しい経験を積んでいく中で、自分をアップデートしていきたかった。今思えば、地元の友人と集まるとまたスタートに戻っちゃうんじゃないかな、という妙な不安を当時は持っていたのかもしれません」

東京でやりきった。ゼロからのスタートも面白い

転機は2011年。東日本大震災だ。結婚を予定していた同郷の作山さんの実家が、津波で流されてしまったのだ。幸い家族は無事に避難することができたが、母親を心配する声が作山さんから幾度となくこぼれた。

その様子をそばで見ていた小松さんは、ふと「一緒に帰っていわきで開業したらどうなるだろう」と考えたのだという。

「帰ったら、担当している1,000人近いお客様を失うことになる。でも東京で有名になった美容師が地方で出店する例はあまり聞いたことがないし、ゼロから新しいものを創り出すのは、大きなチャンスともいえる。『地方にすごくカッコいいサロンを創ったら面白いんじゃないか』。そう思えてきたんです。それに、メディアやファッションショーの仕事など、やりたいと思ったことは全部やりきったという気持ちも背中を押しました」

2012年に、いわき市に戻ることを決意。そこから2年かけて準備を進めた。たまたま結婚を機にいわき市に移住していた茅野さんを誘ったのも、この頃だ。

オシャレに敏感な若者から広がった

2014年当時、いわき市の人口は約33万人。勝算はあったのだろうか。

「たしかに東京に比べればいわき市は人口が少ないし、ターゲットとする20代、30代の人口は、もっと少ない。でも僕が目指す、突き抜けてオシャレな店であれば、絶対に勝負できる。技術があれば、30万都市でもやっていける。そう思っていました」

実際にオープンしてみると、若い世代を中心に客足が伸びてすぐに人気店になった。口コミで幅広い世代にも評判が広がり、広告を一切出していないにもかかわらず、来客数は年間延べ7,000人超に。開業から5年経った今も、月平均50人もの新規来店者があるという。これまでは定期的に東京や仙台に髪を切りに行っていたという客も稀ではないそうだ。「オシャレに敏感な人から広げていきたい」という小松さんの読みが当たったわけだ。

「美容師は、技術者です。東京で通用しない技術は、地方でも通用しない。反面、きちんとした技術を身につけていれば、都会にいても地方にいてもそんなに差はない。同じように働くことができると思います」

他店のフライヤーもたくさん並ぶ。「いわき市内や近隣のカッコいいお店、仲間のお店にも興味を持っていただきたくて」

自分の楽しさは、自分で見出すもの

もともとは家族への思いから始まった開業だったが、準備を進める中でその眼差しは、次第に地元へと注がれていった。

「なくしたいのは、『いわきにはない』。オシャレな美容室を探して東京まで出かけていた人がうちで髪を切ってくれたら、いわきにお金が落ちますよね。そういうふうに、おいしい店やオシャレな服屋がもっと増えていけば、いわきが盛り上がる。僕は美容師なので、まずは地元にオシャレな人、ファッションや髪形に興味を持つ人を増やすことで、盛り上げたいと思っています」

店側の連携も大事だと考え、地元の店のフライヤーなどを店内に置き、情報の中継地にもなっている。また、志を同じくする美容師と組んで、美容師を目指す県内の若者向けのイベントを立ち上げた。

「ヘアショーを開催して、地方にいてもカッコいい美容師を目指せると思ってもらえる仕掛けにしています」

そんな中で自身も可能性を広げようと、新たな挑戦を始めた。それが、冒頭のヘアコンテストへの参加だ。2018年に初参戦し、2年目となる2019年、2作品が最終ノミネート作品に選ばれるという成果を上げたのだ。

地方では自分をアップデートさせられないのではないか ――。かつての小松さん同様、こんな疑念を持つ人は多いだろう。しかしどこにいても、自分が本気で求めれば成長し続けられる。そして、きちんと評価を受けられる。大事なのは、気持ちだと、小松さん自らが答えを示してくれている。

「大事なのは、『楽しいのか?』と受け身でいることではなく、『自分が楽しめるかどうか』。この状況を楽しくするにはどうしたらいいか、という発想がなければ、どこにいたって楽しむことはできないと思うんです。自分のマインドを『楽しもう』とポジティブにする訓練が大切だと思います」

「楽しめる力」を武器に道を切り開く先駆者からのメッセージだ。

SLUNDRE(スランドル)

〒971-8144
福島県いわき市鹿島町久保3-3-9 2F
Phone:0246-84-8568

(営業時間)
平日・土曜日   10:00 - 20:00
日曜日・祝日   10:00 - 19:00
定休日      月曜日、第三火曜日