シェアする

  • LINE
  • Twitter
  • Facebook

未来テクノロジー

テクノロジーが拓く、豊かな未来。挑戦し続ける人と企業をクローズアップ

革命的なドローンによって人々の暮らしを変える 日本発のグローバルハードウエアベンチャー

2021年02月19日

市原 和雄さん

株式会社プロドローン 常務取締役 執行役員CRO

大手家電メーカーにてネットワークを利用した映像や通信機器の設計開発に従事。その後、独立し株式会社Net&Logicを設立。ネットワークやクラウド上で各種サービスを開発する。2015年、株式会社プロドローン設立に参加。東京支店に席を置き、福島ロボットテストフィールドなどで、ハードやプログラムの開発に励む。休日は技術書を読んで過ごす。

「パーソナルコンピューター」「携帯電話」「インターネット」「スマートフォン」の登場によって、世界は大きく変革した。そして今、「産業用ドローン」というパラダイムシフトを迎え、世界各国が次世代ドローンの開発に取り組んでいる。設計、開発、製造の全てを自社内で行う株式会社プロドローンは、高い技術力を生かした大型特殊ドローンを開発し、世界から注目を集めている。同社の技術がどのように世界を変えるのか、常務取締役である市原和雄さんにうかがった。

専門に特化した産業用ドローンを開発し
社会課題の最適なソリューションを提案

プロドローンは設立5年と若いが、母体となる会社がRCヘリコプターやマルチコプターの開発に25年以上携わっており、ノウハウと技術力には定評がある。ドローン業界において最大のシェアを誇る中国のDJIは、写真や動画撮影を専門とする小型のドローンを手がけている。一方、プロドローンが得意とするのは、大型で特殊な産業用ドローンだ。

ものを掴んだり、ケーブルを切断できるアームが付いた直接作業型ドローン、幅1.5mあるL字型をした機体で橋などの壁面検査を行う検査専用ドローンなど、見た目にもユニークな数々のドローンを開発する。2019年の東京モーターショーでは、ゼロエミッション時代を見据え水素貯蔵容器を搭載したPEFC(燃料電池)ドローンを発表し、会場を沸かせた。

写真左は、世界初となる多関節の2つのアームを持つドローン「PD6B-AW-ARM」。高所や危険な場所での作業にも対応。LTE回線などを使い何百km離れた場所からも制御できる。右は、壁面接触型検査ドローン「PD6-CI-L」。対象物に貼り付きながら自走し、橋などのインフラ検査を行う

同社を有名にしたドローンの1つに、災害時に人を救助する対話型救助用パッセンジャードローン「SUKUU」がある。飛行時間は15分、搭乗人員数1名(最大100kgまで)。オートパイロットではなく、特別な訓練を受けた専任パイロットが操作し、専用のマイクやカメラを使い、要救助者へ声掛けや指示をしながら、安全な場所まで避難させることができる。

対話型救助用パッセンジャードローン「SUKUU」。洪水などの災害時に、地元警察や消防などと協力し、コントロールステーションが現場近くへ急行して社内から機体をコントロール。搭乗した救助者は手元のタブレットを使い、パイロットとコミュニケーションを取ることができる

「大型ドローンは、小さなドローンをただ大きくすればいいというわけではありません。大きくなればプロペラは回りにくくなりますし、小さいと無視できる物理的な力も影響してきます。パッセンジャードローンのように下に重心があると、見かけ以上に高い技術力が求められるんですよ。こういった開発の積み重ねが大型ドローンの開発に生きてきます」

機体だけでなく、システムソフトウエアの開発力も高い。例えば、原子力発電所のように広い場所では監視カメラだけでは追いつけず、監視用ドローンがその役割を担う。もし人がいたとき、それが職員なのか、近所の住民なのか、それとも不審者なのか判断しなければいけない。そのための顔認識画像処理システムや、クラウド上のシステムが遅延なく動く設計などを行う。

ハードとソフトを組み合わせ、クライアントのニーズや社会課題に応えたソリューションを提供する。「プロドローンに相談すれば、なんとかしてくれる」と、クライアントの評価は高い。

市原和雄さん(株式会社プロドローン 常務取締役)。「これまでの知識と経験をドローンシステムやサービスの提案に活かし、新しい世界を創りたい」

シングルローター型の運搬ドローンが
離島間、災害孤立地区への物流を変える

プロドローンのメイン事業は、大型運搬ドローンの開発。マルチコプターと呼ばれるドローンが複数のプロペラを持つのに対し、同社ではヘリコプターのようなプロペラが1つ付いたシングルローター型ドローンも開発している。

「翼面積が大きいため、同じエネルギーで長時間飛行できます。また、マルチコプターは機体を傾けることで風に耐えますが、シングルローターは翼の角度を変えて対応するので、機体が傾かず、荷物への影響が少ないのもメリットの1つ。海に囲まれ、山や谷の影響で風が強い場所が多い日本は、シングルロータータイプが向いていると思います」と市原さんが解説してくれる。

2019年9月には、三重県志摩市、愛知県蒲郡市、静岡県御前崎市、KDDI株式会社とともに、シングルローター型ドローンによる長距離物流の実証実験がスタートした。志摩市と御前崎間の最長約175kmの自動飛行は、日本初となる試み。また、志摩市と蒲郡市の約70kmを時速120km飛行し、40分ほどで荷物を届ける計画だ。

国策として地方の防災・減災が叫ばれる中、ドローンを使った緊急物資の輸送にも期待が寄せられる。同社では、標準積載重量50kg、飛行時間2時間、航続距離120kmの大型ドローンを開発。これまでのように機体下部にカーゴボックスを設けるのではなく、機体上部から積載物を積み込むスタイルを採用した。これは、輸送現場からの声に応えたもの。

物流関連の企業から問い合わせはあるもの、最後の課題は「コスト」だと言う。例えば、単価の安いうどんを30kg運んでも赤字になってしまう。都市部なら、1万円のワインを10分で届けるサービスは成立するかもしれないが、今はまだ有人地区である都市部でドローンを飛ばすことはできない。船やヘリコプターを使い薬などの必需品を運ぶ離島や中山間地域なら、多少コストがかかっても実現性はあるのではないか、と市原さんは考える。

「50kgが目安ですね。軽トラックで運ぶには少なすぎるけれど、人では重すぎる荷物。これが実用化されれば、ビジネスは加速します」

長距離飛行を実現させるために、ガソリンエンジンを搭載。これから実証実験を重ね運用を目指す

クラウド上の仮想ドローンを操作する
高い安全性を持つ輸送プラットフォーム

長距離間輸送サービスは技術的に実現可能だと言う。では、何が課題なのだろうか。「ものすごく簡単に言えば、ドローンが落ちなければ普及はするんです」と市原さん。

技術の進歩や部品の精度が上がり、簡単に墜落することはないが、「もし落ちたらどうしよう」といった心理、落ちた場合の保険の問題などが普及の妨げになっている。これは、さまざまな実証実験などを繰り返し行い、ドローンが飛ぶことが日常になれば解決するはずだと言う。

産業用ドローンを安全に飛行させる1つのアイデアとして、同社はクラウド上でドローンを管理する「PROFLYER(プロフライヤー)システム」を提案している。従来であれば荷物をドローンに載せ直接操作していたが、「PROFLYERシステム」はクラウド上にある仮想ドローンを操作すると、本物のドローンが実際に運搬するというもの。

産業用ドローンを10時間飛ばせば資格をもらえる。しかし、あらゆる状況に対応するためには、さらに飛行時間や経験値が必要だ。

「全国の自治体は、災害用にドローンを使いたいと思っていますが、操作などの運用面で不安があるようです。バッテリーを入れるぐらいはできるから、フライトは誰かに任せたい。そんなときに、『PROFLYERシステム』が活躍してくれます」

ドローンやAGV(無人搬送車)を使った物流改革を見すえ、輸送プラットフォーム「PROFLYERシステム」を考案

「ドローンの離陸時や着陸時、異常事態発生時などに、経験値の高い人間が介入し、操作監視をする。いずれはオペレーションセンターを全国に3カ所設け、1人のオペレーターが全国各地で飛行する複数の産業用ドローンを遠隔操縦したい」と構想を披露してくれた。

最先端のドローン開発環境で
世界一のドローンメーカーを目指す

プロドローンが福島ロボットテストフィールド(以下、福島RTF)の研究棟に入所したのは2年ほど前。福島RTFでは、7,000W(ワット)のジェットエンジンの開発をしている。

「推力が100kgもあるようなロケット用ジェットエンジンの制御は難しいですが、私たちが開発しているのは推力8kg程度。ジェットエンジンで発電しモーターを回してプロペラを動かすという仕組みです」

福島ロボットテストフィールドでは、システムソフトウエアなどの開発も行っている。「東京と比べ、周りに誘惑するものが少ないから仕事に集中できる」と笑う

同社は名古屋に開発拠点を持っているが、福島RTFの使い心地はどう思っているのだろうか。

「建物に衝突しないドローンを開発するために、建物のギリギリで操作することもありますし、衝突した場合のデータを得るため、やむを得ず衝突させることもあります。福島RTFには、原状回復すれば、ぶつけてもいい橋やトンネルがあるんです。そんなことができるのは日本中探してもここだけですよ」

「開発環境は良くなり、研究の質が上がりました。もうすぐ5Gのアンテナも建つようです。今は人が乗るドローンの飛行実験は屋内に限定されていますが、いずれ屋外でも可能になる。その最初の特区がこの福島RTFと言われ、開発者としては魅力的ですね」と声を弾ませる。

製作エンジニアのスペシャリストたちが、次世代ドローンの開発に邁進

最後に今後の展望をうかがった。

「ヒット商品を生み出し、2024年までには上場したいですね。そのためには、パワーソース(給電方式)や信頼性の向上が欠かせません。自動車のようにフェールセーフ思想が徹底され、誤作動、誤操作が発生しても、安全に制御できるレベルに持っていきたいです。10台、100台と量産ができるようになれば、福島の企業とともにドローン産業に貢献したいと思っています」

福島から世界を変える革新的なドローンが登場する日は遠くなさそうだ。

株式会社プロドローン

2015年に創業。産業用ドローンのシステムメーカーとして、ドローンの企画、設計、製造を行う。本社とR&Dセンターが愛知県にあり、ドローンの開発拠点の1つして福島ロボットテストフィールドに入居する。ハード(機体)とソフトの両方に高い技術力を持つ、世界でも数少ない企業。国産ドローンメーカートップの特許出願取得数を誇り、さまざまな先端実証実験を行う。