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未来テクノロジー

テクノロジーが拓く、豊かな未来。挑戦し続ける人と企業をクローズアップ

人の“歩行”に着目。2つの「ウォークメイト」で
人生100年時代の健康寿命の延伸に挑む

2022年02月22日

石黒 直也さん

WALK-MATE LAB株式会社 執行責任者

1970年生まれ、東京都港区出身。青山学院大学経営学部経営学科卒業。㈱東芝に入社後、半導体事業会社に27年間勤務。国内ではメモリを中心にマーケティング・経営企画、海外では6年のアメリカ駐在を中心に営業企画に従事。社外ロビー活動では官民合同6カ国の世界半導体会議に、半導体産業界の日本代表として派遣され通商戦略委員会を推進。㈱東芝を退職後は産学連携支援事業をアカデミックから始め、2020年7月よりWALK-MATE LAB㈱の執行責任者として、歩行アシストプラットフォームの社会実装を目指し活動中。

村方 正美さん

WALK-MATE LAB株式会社 生産技術統括部執行役員 部長

1958年生まれ。福岡県八女市出身。東京理科大学理工学部電気工学科卒業、同大学院修了。東芝ULSI研究所に入社後、LSIの自動設計CADの研究開発に従事。その後半導体関係のコンソーシアム、研究所、企業へ出向し、半導体の社会貢献(医療・介護分野)に関する研究、IoT関連のデバイス・システムの開発と社会実装に向けたソリューションサービスの提供などを推進。2021年4月よりWALK-MATE LAB(株)にて総括製造販売責任者として、人に寄り添う運動支援ロボットで社会に貢献すべく事業を推進中。

鴨井 信浩さん

WALK-MATE LAB株式会社 品質管理統括部執行役員 部長

1971年生まれ。新潟県妙高市出身。国立長野工業高等専門学校機械工学科卒業。スバルの関連企業にてエンジン加工機の設計を担当。富士通にてスーパーコンピュータの機構部や自動化ラインの設備設計に従事。ライン導入に関連してフィリピン、タイなどの東南アジア各国にて生産ラインの立上げ業務を実施。その後、携帯電話関連の企業にて品質管理業務を担当、中国広州市にある製造工場にて品質管理体制の見直しを先導。その後、菊池製作所にて飯舘工場および中国工場(中国東莞市)の品質管理体制の底上げを実施。2021年4月よりWALK-MATE LAB(株)の品質管理責任者として、人にやさしい製品と安全、安心を基本方針として品質保証に尽力中。

人の“歩行”に着目。いつまでも健康に歩き続けられる社会を目指すWALK-MATE LAB 株式会社は、東京工業大学(以下 東工大)発のベンチャー企業だ。三宅研究室の長年の研究成果をもとに、歩行困難な方々のサポートをする装着型の「ウォークメイトロボット」と、歩行を分析する「ウォークメイトゲイトチェッカー」の製品化に成功した。その過程からリハビリおよび予防医療に加え、教育機関の学術研究、アスリートのランニング管理、美容、旅行など、さまざまな可能性が見えてきたという。ここ南相馬から「歩行アシストプラットフォーム事業」をモデル化し、人生100年時代の“歩行”に貢献していきたいと意気込む石黒直也さん(執行責任者)、村方正美さん(生産技術統括部執行役員部長)、鴨井信浩さん(品質管理統括部執行役員部長)を訪ねて、これまでの取組や今後の展望などをうかがった。

すべての人がいつまでも健康に
歩き続けられる社会を目指して

歩行トレーニングロボットと歩行分析計で構成される歩行アシストプラットフォームのシステム開発の開発、社会実装を掛けるWALK-MATE LAB株式会社は、SDGsの目標3『すべての人に健康と福祉を』および、目標11『住み続けられるまちづくりを』をモットーにしている。製品化に成功した機器には、すべての人がいつまでも健康に歩き続けられる社会に貢献したいという願いが込められている。

人は、もともと持っている歩行のリズムが崩れると、筋力があっても歩くのが難しくなるそうだ。石黒直也さんは、「弊社の最高技術責任者でもある東工大の三宅美博教授は、相互同調によって歩行リズムを回復できることを発見し、この現象を利用してロボットと人がリズムを同調させることで、言い換えると『間』をお互いに合わせることで、歩行をアシストする方法を提案しました。これを我々が歩行トレーニングロボットへと展開させてきました」と話す。

執行責任者 石黒直也さん

また、「歩行障がいが現れると転んでケガをして、病状を悪化させてしまうこともあります。そうした事態を防ぎたいという思いがあります」とも。転倒は、寝たきりになる要因の一つに挙げられる。寝たきりになると、以前のような生活は難しくなる。そうなると人の幸福度指数は、著しく低下してしまうそうだ。そこで、医療ロボティクスを歩行のトレーニングやリハビリテーションに役立てたいと考えているのだという。

目標は、「歩行アシストプラットフォームの社会実装」だ。「東工大が中心となって、日本国内だけでなく海外においてドイツと共同で基礎研究を進めてきました。まずは、南相馬発の社会実装を国内で拡充したうえで世界へと思っています」

装着した人の歩行リズムに同調。
ロボットが腕と脚の動きをアシスト

現在、同社は製品化した2つの機器を医療機関などで活用してもらいながら、“歩行”に関する課題解決に取り組む社会実装を展開している。その一つが、「WALK-MATE ROBOT(ウォークメイト ロボット)」と名付けられたウェアラブル※歩行支援ロボットだ。このロボットは、二人で並んで歩いているときに自然と歩行リズムがそろうように、装着した人の歩行リズムと同調することができる、「間」が合うロボットだ。この同調したリズムを用いてロボットは自然なタイミングでモーターを動かし、装着者の腕振りと脚振りをアシストする。
※「身に着けられる」という意味

ウェアラブル歩行支援ロボット「WALK-MATE ROBOT」

「ロボットが無理やり人を動かすわけではありません。ロボットと人がお互いにリズムを合わせていく中で、歩くリズムの崩れたところを戻す、あるいは整えることを目指しています。WALK-MATE ROBOTと『間』を合わせながら歩き、歩行トレーニングをしてもらえたらと思います」

将来的には医療機器としての認定を目指し、疾病ごとにアシストできるような複数の機能を持たせたいと考えているとのこと。

医療現場での歩行診断記録を丁寧に
「歩行分析計 WM GAIT CHECKER Pro」

さらにWALK-MATE LAB株式会社は、東工大の三宅美博教授の研究成果である歩行軌道推定アルゴリズムを、医療機器として社会実装し、商品展開を行っている。それが一般医療機器(クラスⅠ)の「歩行分析計 WM GAIT CHECKER Pro (ほこうぶんせきけい ウォークメイト ゲイトチェッカー プロ)」だ。両足首と腰に装着する小型ウェアラブルセンサーで歩行運動を計測し、一歩一歩における足首や腰の時空間的な歩行軌道を推定するだけでなく、歩行の特徴量も含めて分析することができる。具体的には、足首の歩行軌道を3次元で推定しており、横から見た軌道(矢状面)、上から見た軌道(水平面)、後ろから見た軌道(前額面)といったさまざまな角度から歩行を可視化して分析できる。さらに、歩行の際の腰軌道も同時に分析され表示できる。昨今では、医師や理学療法士の方々等による臨床現場での利用や、分析結果のカルテへの反映など、活用事例が増えつつある。今後の診断支援に対する歩行分析計 WM GAIT CHECKER Proの活発な利用展開が期待される。

WM GAIT CHECKER Pro。タブレット端末に歩行データが表示される

「患者様の歩行を継続的に計測・分析し、治療やトレーニングに伴う歩行の変化を記録することで、次の診断を支援する情報に活用していけると考えています」と話すのは、村方正美さんだ。

生産技術統括部 部長 村方正美さん

「歩行分析の結果は、患者様も端末を介して簡単にご覧になれます。従来、患者様がご自身の歩行を見る機会はなかなかないわけですが、分析結果が視覚的に共有され、医師や理学療法士の方々と患者様とが一緒に分析結果の確認を行うことで、より良いコミュニケーションにつながり、ひいては診断支援だけでなく患者様のモチベーションにも繋がるかもしれません。みなさんもぜひ、体験してみてください」

取材班も体験してみるとタブレットに示された歩行軌道は、三者三様。歩き方の癖について互いに話が盛り上がった。歩行の際、自分の身体がどのように動いているのかに注目するのは人生で初めてであり、自分の歩行ひいては健康に、さらに興味を持つ良いきっかけにつながったと思った。

小型ウェアラブルセンサーを用いた歩行分析システム

2021年4月、同社は医療機器製造販売業の許可を取得し、現在では一般医療機器(クラスⅠ)である歩行分析計 WM GAIT CHECKER Proの取扱いを行っている。

村方さんは、「これからも人と人とのつながりを大切に、歩行を介して行われる医療現場での診断支援やさまざまな活動にお役に立てるよう、精進していきたいと思っています」と使命感に燃える。

2つの機器を総合的に活用し
人の歩行の未来を拓く

現在、福島の3つの医療機関にモニターを依頼している。パーキンソン病の患者さんの歩き方をゲイトチェッカーで分析。その後、患者さんがWALK-MATE ROBOTを装着しトレーニングを行い、再びゲイトチェッカーを付けて歩く。患者さんと理学療法士とで、表示されたグラフの変化を見ながら感想や意見を集約し、さらなる改善につなげる。

2つの機器を、個別に使うだけでなく、ゲイトチェッカーをつけた状態でロボットを装着。リアルタイムでロボットの動きをタブレットで管理できるようにすることも考えている。

「私たちがいうプラットフォームは、2つの機器を総合的に使っていただくこと。フィードバックを重ねて、さらに使い勝手よくと思っています」と、前出の石黒さん。

南相馬を一括体制で開発製造の
拠点とする準備も進行中

また、南相馬を製造の拠点とする準備も進められている。担うのは、国内外の新規工程の立ち上げ、改善に関わってきた鴨井信浩さんだ。常々、歩行に不安を抱えたり、苦労している人が多いと感じていた鴨井さんは、少しでも不安の解消や日常歩行の手助けとなればと胸中を語る。

品質管理統括部 部長 鴨井信浩さん

「品質管理は、アフターフォローや問題が起きた時の対処も含みます。WALK-MATE ROBOTについては、すでに200時間以上の装着歩行を行っており、安全性や耐久性などの問題有無について確認しています。今後は問題点のみならず細かな違和感についても検証して改善を継続していきます」

また、WALK-MATE ROBOTの安全性試験のために、福島ロボットテストフィールドについても有効活用しているとのこと。品質管理の立場にて耐久性、安全性、環境影響など、継続して使用した場合に起こるまたは起こりうる問題を想定し、改善を行ったうえで、八王子市の本社から南相馬市へ手配、組立、検品などの製造工程を一括で移動させる予定だ。

若い人が活躍できる環境のある南相馬
“歩行”で未来を照らす

着々と歩みを進める同社。実用化を通してさまざまな手応えを感じているという石黒さんは、すでに次のステージをイメージしている。心拍の情報を取得するなどアシスト機構を追加すれば、「少し無理をしても大丈夫」など、負荷を加えることも可能になる。

もう一つが健常者向けの展開だ。歩行支援で諦めていた旅行を実現したり、データから読み取れる筋力量を健康に換算して生命保険の手続きに生かしたり、アスリートのランニング管理、美容、靴のフィッティングなど、さまざまな可能性が見えてきた。こうした分野で活用すればスキルアップや健康を後押しする頼もしいパートナーになりうる。

「ずっと人のために何かしたいという気持ちを持っていました。それがまさに、いま南相馬で実現しようとしています。私の決断は間違っていなかった。最近は、ずっとワクワク感に包まれています」

そんな石黒さんは、南相馬に流れる自由闊達な風土にも好感を抱いていると話す。

「行政、医療機関、みなさん協力的です。意見が伝えやすく、それが形になるとモチベーションも高まります。若い人が南相馬市はもとより福島県内にて活躍できる環境が整いつつあるのではないかと思います」

事業は、続けていくことに意義があり、続けることが力になるとも。南相馬から歩行アシストプラットフォーム事業をモデル化し、人生100年時代に貢献していきたいと意気込む。アイデアは次々に湧いてくる。生きるよろこび、働きがいまでアシストする“歩行”の未来は明るい。

WALK-MATE LAB株式会社

2015年8月設立。東京都八王子市に本社を構える。菊池功代表取締役(菊池製作所 代表取締役社長)と、三宅美博最高技術責任者(東京工業大学 教授)がトップを務めている。東工大発ベンチャーとしてIoTを中核に、AIとビッグデータを結合した先端技術を活用し、歩行という側面から人々の生活を支援する革新的なロボティクスのマーケット拡大に向け、早期の社会実装を目指しシステム開発・製造・販売を進めている。WALK-MATE LAB 株式会社は、2021年4月第三種医療機器製造販売認可を取得(許可番号13B3X10313)。またGAIT CHECKER Proは保険診療の対象となっている。