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福島県内の高校生が1年の取組成果を報告。西村俊彦氏(スタンフォード大学 創薬・創医療機器開発機構所長)が基調講演。

2020年03月25日

2月23日、「福島イノベーション・コースト構想の実現に貢献する人材育成」成果報告会が日本大学工学部(郡山市)で実施された。福島県内の高校34校の生徒や教育関係者ら約250人が来場。小雪の舞い散る寒さの中、会場は熱気にあふれた。基調講演に登壇したスタンフォード大学の西村俊彦氏は、生徒がプレゼンする姿を見守り、「自分の言葉で意見を発信し、伝える姿勢が頼もしい」と評価。主催は、福島県と福島県教育委員会、福島イノベーション・コースト構想推進機構。

2月23日、「福島イノベーション・コースト構想の実現に貢献する人材育成」成果報告会が日本大学工学部(郡山市)で実施された。福島県では、「福島イノベーション・コースト構想」の実現を担う人材育成のため、平成30年度から県内各対象校において、各校の特色や地域の企業等と連携した新たな教育プログラムを実施。今回は、そのプログラムに取り組んだ福島県内15校の生徒がそれぞれにブースを設け、取り組みを展示、プレゼンした。

このうちトップリーダー育成事業を実践した福島県立磐城高等学校は、さいたま市立大宮北高等学校との交流を通じて、「外部の人や環境と触れ合うことで学んだのが、自分たちは意外とこの地域、いわきのことを知らない、ということ。これからは、地域のことをきちんと学んで、地域特性を生かしたイノベーションに取り組みたい」との学びを発表した。

報告会とパネルディスカッションの様子。生徒たちは自身の成果を発表するとともに、他校の成果発表を積極的に参観

また、福島県立相馬高等学校の生徒たちは、エネルギーや環境などの社会課題に対する研究を通じた学びを報告。工業人材育成事業を実践する中で、福島県立平工業高等学校の生徒たちは、プレゼンテーションの仕方を学んだ。この学びを生かして、工業高校の定員割れに生徒自らが問題意識を持って行動に移し、中学生に対して平工業をPR、魅力発信する取り組みを実践したという。「一番大切なことは、どれだけ分かりやすく伝えるかということ。簡単ではなかった。発表とプレゼンテーションは似通っているが、全然違う。プレゼンは、何を相手に一番伝えたいかを俯瞰する力と想像力が必要で、コミュニケーション能力を発揮するには、相手を思う、感情が大事」ということを学んだという。

また、生徒たちの成果報告に先立って実施されたのが、スタンフォード大学の西村俊彦氏による基調講演。「君たちに伝えたいスタンフォード大学で学んだこと」と題して、イノベーティブな発想やidentityの確立の重要性などを説いた。生徒たちは、熱心に話を聴くだけではなく、西村氏に活発に質問するなど、インタラクティブな時間となった。

講演中、生徒からの「個人としてのidentityを確立するために必要なことは?」「マネジメント力はどうやって養えるのか?」などの質問にも、丁寧に回答する西村氏

福島イノベーション・コースト構想にゆかりある企業も多数出展。会場では、ロボットやドローン、ウェアラブルIoTデバイスなど最先端のテクノロジーやサービスが紹介され、生徒たちも企業の取り組みに大きな関心を寄せていた

▼基調講演
「君たちに伝えたいスタンフォード大学で学んだこと」ダイジェスト
スタンフォード大学
創薬・創医療機器開発機構所長 
西村 俊彦氏

たった60分の出会い

僕が話している最中に、分からないことがあったら、手を挙げて何でも質問してください。いつもの授業のように聴いているだけではなくて、インタラクションが生まれるかなと思います。今日は講演タイトルにある通り、僕がスタンフォード大学で学んだことを、できるだけ分かりやすく伝えたいと思います。

まず、僕と皆さんの出会いは、この瞬間、一期一会です。今日しか会えない、かもしれない。一生のうちで、たった60分間会うだけ。だけれど、僕もみんなもこの60分間のことを、この後85年間ずっと覚えているかもしれない。僕は今60歳ですが、必ず100歳まで生きようと思います。必ず。だから、この60分間は本当に大事な一瞬です。僕も精いっぱい、頑張りますから、ぜひ皆さんも頑張って聴いて、質問してください。

戦略とマネジメント

僕は、今日たくさんのことを伝えたい。例えば、「20年先を考えてみよう」という視点。あるいは、「Cleverであるより、Wiseになりましょう」「一期一会」「個、identityの確立」「法律順守と活用」。そして、「戦略とマネジメント」等。

何か物事を始めるときに、大きなミッション、テーマを決めます。その後はどうやってこれを実現していくか、大きな構想を立てる。それが、戦略です。戦略を立てた後に次は具体的に何をすればこれを実現できるか、それが計画です。でも僕は高校生の時に、こんなことを知りませんでした。でも今は体の隅々までこの考え方が浸透しています。例えば研究するとき、旅行するとき、あるいは家を造るときも。何かをするときには必ず戦略を決めて、行動計画を決めて、実践して、評価して反省していく。これが大事。

そして、「fail fast fail better(とにかく、失敗を恐れるな)」「I字型人間よりも、T字型。T字型人間よりもπ字型。π字型人間よりも鼎型人間になろう」「学ぶことは、楽しいこと」ということも大事です。

スタンフォード大学のイノベーションとは?

スタンフォード大学では、blue marineを目指します。誰もやらないこと、オリジナルなことを目指すので、失敗も多い。だからたくさんのイノベーションを起こしてきた。医療だけではなく、Googleや、Yahoo!、Ciscoなど世界をどんどん変えてきたし、臨床や産業を拓いてきた。僕たちは、Red marineは目指さない。誰もいない、青い海を目指すんです。1匹も魚がいないこともある。僕はダイバーなので、子どもの頃はよく貝殻採集をしていた。でも実は海底には貝はいない。貝がどこにあるかを知るためには、scienceが必要。貝は何を食べるのか、それは海のどこにいるのか。それを研究して、ポイントを探す。これは、蝶が好きな人が世界中の花を探しているのと同じこと。blue marineは豊穣な海かもしれないし、魚が1匹もいないかもしれない。だから挑戦してみる価値がある。

これを実践するのに、スタンフォード大学には合言葉があります。それが「fail fast fail better」。そう、チャレンジしようよ、ということなんです。失敗してもいいじゃない。だけど、失敗を糧にして、次のステップでbetter、やっていこうよ。

そして、「個の強さ」が求められます。皆さんは、自分の意見を、1:1のときは言えるかもしれない。では、3人の中、10人の中、あるいは100人、10,000人の中で自分の意見を言えますか。そういう訓練をしています。訓練をしていけば、必ずできるようになります。

そして、教訓として、ですが、僕はこれを身に付けるのに、10年間くらいかかった。「自分の意見に反対する人に、冷静に、対応すること」。スタンフォード大学では、会議の場で感情的に対応する人は尊敬されません。たとえ、その人の意見が正しかったとしても、です。賛成する意見に首肯することは簡単です。でも、反対意見を持つ人に向かって、冷静に、穏やかに接することができるか。だから、スタンフォード大学の構内はとても静かなんです。

そして、「いい人はいいね」という言葉を大事にしています。僕が皆さんと同じ年代だった頃に、川端康成原作の映画『伊豆の踊子』を見ましたが、その一節です。僕はずっとこの言葉を覚えていた。なんだか、頭から離れなかった。スタンフォード大学で過ごしてみると、みんな「いい人」なんです。つまり、個が確立していて、反対意見を恐れずに、独創的で、失敗を恐れない。それでいて、エリート、あるいは、いい人になろうと努力する姿勢がある。

皆さんは、まずこの「いい人」になるような努力をしてみてください。イノベーションを支えるエコシステムは、ここにいる大人たちが作ってくれますから。あるいは、そこに参画していけばいい。

20年後に何が起きているか

20年後、2040年には、僕は80歳になっている。皆さんは36歳~38歳になっている。その時の環境は今とはまったく異なっているかもしれません。だけど、高齢化は間違いなく世界で進む。WHOが定義する「高齢化」は、その国民の30%以上が60歳以上であること。これは、今は日本だけ。203ある国家の中で。ところが、20年後はどうか。中国もヨーロッパも、タイもカナダも高齢化社会になっている。これって、大変な事態です。でも一方で、チャンスです。なぜかというと、いま日本には高齢化ビジネスはたくさんあります。福島にもたくさんある。これをシステム化して、発信していき、世界をリードしていく。すると、20年後、世界中の国々が日本発のサービスを必要としてくるはずです。これを常に頭に入れておいてほしい。

最後に1つ。ぜひ、T字型人間になってほしい。僕の場合は、医療をずっと深掘ってきた。そして、横の軸、音楽や経済、法律などのいろいろな知識、経験を増やしていった。ぜひ皆さんも、面積の広い人材になってください。時間があれば、π字型、鼎型人間になって、もう1つ、2つの専門を増やしてほしい。それがグローバルな人になっていくための近道。2020年の福島を、日本の中心に、世界の中心にしていくためには、必要なことだと思います。ぜひまた、スタンフォード大学か世界のどこかでお会いしましょう。ありがとうございました。

西村 俊彦 氏
スタンフォード大学 創薬・創医療機器開発機構所長

鹿児島県出身。東北大学医学部、同大医学部大学院胸部外科博士課程卒業。東北大学加齢医学研究所呼吸器再建分野入局後、外科医修練。福島県いわき共立病院等勤務。1997年スタンフォード大学医学部Pulmonary& Critical Care Medicine(PCCM)に勤務。基礎研究を実施し臨床家・基礎研究者の実績より創薬・創医療機器開発機構所長就任(現職)。バイオベンチャー会社創業、製薬会社、医療機器会社のアドバイザーを歴任し日中欧米で活躍。慶応大学医学部客員教授、東北大学医学部特任教授等を歴任。

令和元年度の教育プログラムの対象校について