「イノベ地域のテクノロジー」のいまを伝えるWebメディア世界を変える、福島のチカラ「Hama Tech Channel」

ものづくりの底力を持つ地域企業と連携し、ロボット技術の革新と復興への貢献を目指す
──クフウシヤ・大西威一郎氏インタビュー

2026年02月26日

大西 威一郎さん

株式会社クフウシヤ 代表取締役

1977年生まれ。兵庫県神戸市出身。明治学院大学経済学部を卒業し、システム開発会社での営業職、CAEソリューション会社での技術職を経験。2009年に法政大学ビジネススクールでMBA経営管理修士(専門職)を取得。同年から父親が起業して始めた飲食店を3年間手伝う。2012年に中小企業診断士として相模原市の産業振興財団に採用され、その後様々な縁を得て今に至る。

神奈川県相模原市の本社と、福島県南相馬市の福島ロボットテストフィールドの2拠点で活動するクフウシヤ。ROSやAIなどのソフトウエア開発の技術力やノウハウを強みに数々の試作開発や受託開発を手掛ける一方で、自社開発の四脚ロボットの研究開発や、南相馬ロボット産業協議会の一員として災害支援ロボットの開発にも取り組んできた。さらに近年注目を集める話題のフィジカルAIの分野にも力を注ぐクフウシヤ代表取締役の大西威一郎氏に展望を聞いた。

2021年3月取材記事はこちら

ハードとソフトの両面で進化するロボット
今は革命を超えるレベルの変革の只中

科学技術は時に雨垂れ石を穿つがごとく、飛躍的な進化を遂げるもの。1960年代に誕生した人工知能(AI)は、幾度もブームと冬の時代を繰り返してきたが、ChatGPTに象徴される生成AIの登場で明らかに潮目が変わった。活用されるほどに学習してさらなる高度化が期待できるAIは、もはやビジネスの現場だけでなく、日常生活でも欠かせない存在になっている。

そんなAIの爆発的普及前夜と言える2021年、ハマテックチャンネルではクフウシヤ代表取締役の大西威一郎さんにインタビュー取材を行っている。当時はサービスロボットの一形態である掃除ロボットの話題をメインに伺ったが、それから5年の歳月を経て、ロボット開発を取り巻く環境は大きく様変わりしている。

大西:
当社でも数年前から取り組んでいるフィジカルAIの進化は特に目覚ましいものがあります。フィジカルAIとは、ロボットとAIを組み合わせたもので、ハードウェアとソフトウェアで構成されます。双方の領域でも劇的な進化が起きており、産業革命やIT革命に匹敵するくらいの変革が日々起きていると感じます。

株式会社クフウシヤ 代表取締役 大西 威一郎 氏

世界的なフィジカルAIのトレンドをけん引しているのは、国家戦略として多額の資金をつぎ込む米国と中国。人間のように走り回るロボットの動画に圧倒されたわずか2週間後には、体操選手かと見まがうような動きのロボットの動画がインターネットで拡散される。いずれもフェイクではなくれっきとした研究機関による最先端の事例が、日進月歩でアップデートされているのが現状だ。

拡張性や自由度の高さにこだわって
オリジナルの四脚ロボットを自社開発

そんな世界の進化の勢いに圧倒されつつも、同社もまた大きな転換を遂げている。

大西:
2021年の取材の際にお話しした四脚ロボットは中国製の市販ロボットがベースでしたが、現在は完全オリジナルの四脚ロボットを開発しています。市販品は便利な反面、使用中に壊れたり暴走したりしないように様々な制約がかかっていて、しかも内部システムはブラックボックス化されています。自社で一から開発すれば、いかようにも手を入れられますから、開発の拡張性や自由度が格段に高まるのです。

クフウシヤが研究開発を重ねてきた四脚ロボット(福島ロボットテストフィールドにて撮影)。
国産によるセキュリティー面での安全性や、4脚それぞれにモーターが内蔵されていることで正確な制御が可能な点などが特長

クフウシヤでは相模原市の本社に14名、福島ロボットテストフィールド(以下、RTF)内の拠点に5名が勤務しており、大西さんは両拠点を行き来しながらプロジェクトを推進する。拠点による機能面の違いはなく、プロジェクトごとにチームを編成し、様々なオンラインツールを駆使しながら開発を進めている。

開発におけるこだわりは地域密着であること。必要な資材をすべて地元で入手できるわけではなく、一部の部品は域外から調達することになるが、製作可能な部品はすべて福島県浜通りで作っている。その際に頼りになるのが、金属加工などの地域の製造業を中心とした企業が集う団体「南相馬ロボット産業協議会」だ。

大西:
当社もその一員として参加しており、普段からメンバーの方々と濃密なコミュニケーションを重ねています。『こういう部品が欲しい』と相談すると、『今やっている仕事の方がもうかるんだけどな、大西さんが言うなら仕方ない』と軽口をたたきながら快く引き受けてくださるのでありがたいです。

世界大会で証明した地域の底力
災害時に真価を発揮するクローラー型ロボット

そんな地域との絆が結実した出来事がある。2025年10月にRTFで開催されたワールドロボットサミット(WRS)の「過酷環境F-REIチャレンジ プラント災害チャレンジ」において、地元企業連合チーム「MISORA+UoA」(MISORA2)はプレ大会で準優勝、本大会で3位という快挙を成し遂げたのだ。このチームは南相馬ロボット産業協議会のメンバーで構成され、大西さんがチームのキャプテンを務めた。

参加チームには、ノーベル賞受賞者を多数輩出したスイスのチューリッヒ工科大学や、災害ロボットの世界大会で優勝経験のあるオーストリア代表など、世界トップレベルの研究機関が名を連ねた。

大西:
予選4位以内で決勝に進めるのですが、強豪ぞろいなので予選落ちも覚悟していたら、なんと2位で予選を通過できたんです。そこからわれわれはもちろんのこと、南相馬市民のみなさんも盛り上がって応援してくださり、休日ではありましたが、南相馬市長も決勝を見に来てくださいました。決勝では少しミスもありましたが、世界3位という結果を出せたことは、近年で一番の感動的な出来事でした。

「MISORA」のプロジェクトは、東日本大震災の教訓を胸に、「本当に現場で役立つロボット」を目指して始まった。震災の後、復旧と復興のために世界中からロボットが届いたが、数週間後には何かしらの故障で動かせなくなるケースが多く、十分に活用できないまま返却せざるを得ないことが多かったという。その当時を知るメンバーの意見を基に真に現場で役立つロボットとは、「壊れてもすぐ現場で直せるロボット」とのコンセプトが生まれた。

初代MISORAは2020年開催の第1回WRS災害対応標準性能評価チャレンジ部門にて、世界第2位の成績を収めている。今回のWRSでは部門の区分が変わり、プラントやトンネルなどでの大規模災害を想定した部門に出場することになったため、MISORA2では主に2つの改良を加えた。1つ目は複雑かつ狭い場所でも小回りが利く設計と機能。2つ目は高度で柔軟な自律動作を実現するためのROS(Robot Operating System)による制御の実現。この2つ目のソフトウエア開発をクフウシヤが担っている。

大西:
MISORAの特徴は4本の足をすべて同じ構造にしていること。現場に予備を2~3本持っていけば、足の故障に対応できます。また、ロボットは前足2本と後足2本が同時に動くものが多く、確かにその方が効率的なのですが、災害後の現場は障害物だらけで移動が容易ではありません。そこで、MISORA2ではあえて難しい技術に挑戦し、4本の脚が別々に動くようにしました。これらの点が高く評価され、WRSでは自律移動の高度技術加点を全10チーム中で唯一、しかも4回も獲得できたのです。

WRSの表彰状(左)と、出場時の様子(右)。右は競技時、MISORA2がバルブを回している場面

この快挙は「ロボットのまち・南相馬」を国内外に広く知らしめることとなり、浪江町にある福島国際研究教育機構(F-REI:エフレイ)の担当者から共同開発のオファーを受けた。大西さんは「浜通りの復興という意味でもF-REIへの期待は大きく、南相馬のロボットの強みとF-REIの研究力の強みがかみ合うきっかけになれば」と抱負を述べた。

日々進化するフィジカルAIに挑戦
最先端技術をもって廃炉に貢献したい

クフウシヤとしては今後、フィジカルAIに全力を注ぐ方針だ。フィジカルAIの進化には方向性が大きく2つあるとされる。1つは人間でいう大脳のように知性や思考に優れ、人間とのコミュニケーションなどに活用するロボット。もう1つは運動やバランスといった人間の小脳がつかさどる領域に長けたロボット。クフウシヤが強みとするのは後者のフィジカルAIだ。

大西:
ハード面は、QDD(準ダイレクトドライブ)モーターと呼ばれる高性能モーターが安価に入手できるようになったことで大きく進化しました。従来は減速機やギアをいくつもかませていたため、理論値をベースにしたシミュレーションと実機の挙動には齟齬そごがあり、適用が困難でしたが、QDDモーターの登場によって仮想環境での学習結果を誤差なく実機に展開できるようになり、この点が技術的ブレークスルーになっています。

オフィスでは日夜、フィジカルAIに膨大なデータを学習させている

ソフト面では新しいAIモデル「VLA(Vision-Language-Action)」に取り組む。一般的な生成AIは「VLM(Vision-Language Model)」と呼ばれ、視覚情報(Vision)と自然言語(Language)による入力に対して画像やテキストを出力する。一方で、VLAは視覚情報と自然言語の入力に対して物理的な行動(Action)を生成する。つまり、VLAはAIが現実世界で得た情報を基に行動することが可能なのだ。現状のVLAは単一のアクションを生成できるレベルで、例えばタオルを畳む、皿を置くといったことはできるという。これが進化した暁には、冷蔵庫を開ける、食材を選ぶ、カットする、フライパンを出す、食材を炒めるといった多数のタスクの一貫した処理が見込まれている。

大西:
技術進化のスピードは想像を超えています。10年かかると思っていたことが2年ぐらいで実現する時代ですから、目指すフィジカルAIは2年後に実用化されているかもしれません。そのくらいの革命的な進化が起きています。

フィジカルAIの真骨頂は人間との協働にある。従来の産業用ロボットは作業の繰り返しに最適化されており、ロボットが動いて作業をするのではなく、固定されたロボットの元に必要な物資が届くスタイルだ。人間と違って疲れ知らずで力強い反面、決まった作業以外の事態に対応できないため、人間の安全を守る目的で作業空間を分離する必要があった。それに対し、フィジカルAIは人間と同じく、自ら動いて作業する。急に人間が近寄ってきても避けたり止まったり柔軟に対応できることから、人と共に働ける協働ロボットとしての活用に期待が集まっている。特に物流や介護など人手不足が深刻な業界からの視線は熱いが、大西さんが見ているのは福島の未来だ。

大西:
私としてはフィジカルAIで福島第一原発の廃炉に貢献したい。RTFもなかったころから浜通りに拠点を置き、福島イノベーション・コースト構想推進機構のみなさんにもご支援をいただきながら、地域と共に成長する道を選びました。廃炉のために社運を懸けてフィジカルAIに挑戦するという会社が1社ぐらい福島にあってもいいでしょう。

地域を思う情熱は創業時から変わらず、クフウシヤの挑戦は福島の将来に向けた可能性を示している。

(取材日:2025年12月11日)

株式会社クフウシヤ

2013年創業。ソフトウエア開発を得意とし、電気設計、機械設計も手掛けるロボットシステムインテグレーター。従業員20人、うちエンジニア6人を擁するファブレスメーカー。神奈川県相模原市のインキュベーション施設に本社を置く。ロボット特区の縁で2019年に福島県南相馬市に進出し、同市原町区栄町の商店街に事務所を構える。サービスロボットの研究開発企業となることを目指して自律移動ロボットの試作・開発に注力している。

福島イノベーション・コースト構想推進機構による支援:
・2019年度 福島県 「地域復興実用化開発等促進事業費補助金」採択(事業計画名:業務用ドライ掃除ロボットの実用化開発)
・2020年度、2021年度、2022年度 福島県 「地域復興実用化開発等促進事業費補助金」採択(事業計画名:特殊用途における業務用自律移動ロボットの実用化開発)
・2023年度、2024年度、2025年度 福島県 「地域復興実用化開発等促進事業費補助金」採択(事業計画名:自律移動型「四脚ロボット」の実用化開発)

Hama Tech Channelとは

「世界を変える、福島のチカラ」のもと、山積する社会課題に立ち向かい、
豊かな未来を切り拓くリーダーとテクノロジーにフォーカス。
「社会を良くする」力強い変革を応援する、福島発・未来共創型メディアです。
ここでは、東日本大震災と原子力災害からの復興を目指す国家プロジェクト
「福島イノベーション・コースト構想」の一環として、
地域の未来を切り拓く取り組みを発信しています。