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世界を変える、福島のチカラ「Hama Tech Channel」 福島イノベ機構

土から育てるウイスキー製造。相馬の豊かな緑の中で資源循環を実現
──CTIアセンド・渡邉暁人氏インタビュー

2026年10月27日

渡邉 暁人さん

株式会社CTIアセンド 取締役/玉野アセンド蒸留所 所長

福岡県北九州市出身。東京大学大学院新領域創成科学研究科環境学専攻(修士課程)修了。大学では下水処理を担う微生物を研究し、建設コンサルティングを行う株式会社建設技術研究所に下水道の技術者として入社。食・農業を通じて、下水道資源(再生水、汚泥、熱など)を有効活用する「BISTRO下水道」に携わる。その中で農業、そして循環型経済の実現につながるウイスキー造りを構想し、本蒸留所の事業立ち上げに参画。事業の開始に合わせて、家族と共に東京都から福島県へ移住。

建設コンサルタント会社の社内ベンチャーとして設立されたCTIアセンド。福島県相馬市の自社農場で育てたトウモロコシを主原料とし、廃校になった小学校校舎を利用した蒸留所でウイスキーの製造に取り組んでいる。相馬の水と地域で栽培した穀物を生かして造るグレーンウイスキー「拓駈(ひらく)」は、2026年3月5日に販売を開始。取締役兼蒸留所長の渡邉暁人氏は、下水道分野の技術者として汚泥肥料の有効活用を検討する中で事業を構想し、CTIアセンドの立ち上げに参画した。自ら遊休農地を切り拓き、ウイスキーの蒸留を手がけるまでに至った経緯やウイスキー造りに込めた思いを聞いた。

下水処理後の汚泥の活用から農業を始め、ウイスキー造りへ

―福島県相馬市でウイスキー造りを始めた経緯を教えてください。

渡邉:
最初のきっかけからお話しすると、父が建築士だったことが影響していると思います。子どもの頃は設計に魅力を感じていたのですが、高校3年生だった1995年に阪神・淡路大震災が発生し、安全・安心なまちづくりや社会インフラの重要性を痛感したことから、土木や下水道の方向に進むことにしました。加えて生物学もずっと好きだったので、大学では下水処理に関わる微生物について研究していました。

大学卒業後は建設コンサルタント会社の株式会社建設技術研究所(建設技研)に入社し、下水道計画や政策立案などのインフラ整備に携わりました。その中で、下水処理の過程で生じる汚泥の有効活用方法を検討する国土交通省のモデル事業に参加したことが大きな転機になりました。

株式会社CTIアセンド 取締役/玉野アセンド蒸留所 所長の渡邉暁人氏

窒素やリンを含む豊かな資源である下水汚泥は、肥料としても利用可能です。下水汚泥は下水処理の過程で生じるため、肥料原料として新たに調達する費用を抑えられる可能性があります。実際に農地へ散布した実証実験では、汚泥肥料の有効性を確認できました。そこで、これを事業化できないかと考えたことが、建設技研の社内ベンチャーであるCTIアセンドの設立につながります。

―汚泥肥料を廃棄せずに有効活用する農業が出発点だったということですか。

渡邉:
そうです。汚泥肥料を使って農業に参入することを前提に、何を栽培するか、その作物を使ってどのようなビジネスを展開するか考えていきました。また、実証実験を実施した福島で「農地の復興」をテーマに事業を起こすことも決めていました。

そうして複数の候補の中から選んだのがトウモロコシです。種まきから収穫までの作業を機械化しやすいため、大規模な農地でも比較的少ない人数で栽培できると考えました。

グレーンウイスキー「拓駈(ひらく)」。
左が蒸留直後の原液(ニューメイク)、右は樽熟成を始めて間もない若い原酒(ニューボーン)

トウモロコシの使い道としては家畜のエサが一般的です。しかし、飼料としてだけ出荷しても採算がとれません。そこで、農業(1次産業)から加工(2次産業)、流通・販売(3次産業)までを一貫して手がける6次産業化によって収益を得るモデルを検討し、行き着いたのが、大好きなウイスキーだったのです。

相馬の土でトウモロコシを育て、廃校になった校舎で製造

―福島の中でも相馬市を選んだのはなぜですか。

渡邉:
相馬市の下水処理場から汚泥肥料を調達できることに加えて、福島県の担当者から紹介された農地候補も相馬市でした。なにより旧玉野小学校の校舎に出合えたことが大きかったと思います。

緑に囲まれた小学校の校舎を見かけたのは、相馬市職員の案内で農地の視察に行ったときでした。「こんなところに立派な小学校があるんですね」と話したところ、職員の方から、最近廃校になった小学校で利用者を募集していると聞き「ここでウイスキーが造れるかな」とふと思ったのです。本格的に蒸留所候補を探し出してみると、この校舎がウイスキー造りに最も適していると気づき、蒸留所にすることにしました。農場は校舎から車で1~2分程度のところにあります。

2017年に廃校となった福島県相馬市の旧・玉野小学校の校舎(給食調理室や理科室など)を
活用して開設された玉野アセンド蒸留所

―玉野地区がウイスキー造りに適している理由は何でしょうか。

渡邉:
まず水がおいしいことです。この地域には阿武隈高地に位置する霊山(りょうぜん)からの伏流水が流れ込んでおり、湧き水をそのまま水道水にできるほど水質が良いのです。しかも、ここの水は硬度の低い水で、この水を使って造ったウイスキーはとても口当たりのいい、柔らかな味わいになります。

また、この校舎は標高500メートルの場所にあり、夏でも涼しく、寒暖差があります。私たちは「樽が呼吸する」というのですが、気温が上がると原酒が樽材に浸透し、気温が下がると樽材から原酒へ成分が溶け出す。この変化を繰り返すことで熟成が進みます。

校舎も使い勝手が良く、排煙窓や業務用換気扇がある給食調理室は大きな蒸留器を設置した蒸留室になりました。リノベーションもしましたが、瓶詰め、ラベリング、貯蔵と、部屋ごとに活用しています。

―旧玉野小学校でウイスキー造りをすると決めてから、どのように準備を進めていったのですか。

渡邉:
2023年春からトウモロコシの栽培を始めましたが、水田だったところを畑に変えるところから始めなければいけません。その作業自体も大変でしたが、春先まで雪が残ったせいで工事が遅れ、作付けも遅れてしまいました。それにより収穫後のトウモロコシを乾燥させる時期も後ろ倒しになり、原料の確保にとても苦労しました。

ウイスキー造りについては全くの素人ですから、「日の丸ウイスキー」を手がける木内酒造(茨城県那珂市)に蒸留設備などについて協力していただき、蒸留技術は木内酒造の八郷蒸溜所(茨城県石岡市)で研修を受けて学びました。アメリカのクラフトディスティラリー(小規模蒸留所)でバーボン製造のワークショップを受けたこともあります。そして2024年6月20日に酒類製造免許を取得し、同年7月1日に本格的なウイスキー製造を始めました。

旧給食調理室に設置した蒸留室

蒸留後のトウモロコシ搾りカスは家畜のエサになり、廃棄物ゼロ

―CTIアセンドは下水汚泥肥料を有効活用することで「資源の環をひろげていく」というコンセプトを掲げています。資源循環についてはどのように展開していますか。

渡邉:
はじめは相馬市の下水処理場で出た汚泥を使っていましたが、現在はその近くのし尿処理施設で出た汚泥肥料を使っています。こちらは汚泥を乾燥・発酵させた肥料で、成分や扱いやすさなどの点から、現在の栽培に適していると判断しています。

この肥料でトウモロコシを育て、そのトウモロコシを原材料としてウイスキーを製造し、製造工程で生じるトウモロコシの搾りカスや廃液は近隣の酪農家さんにエサとして使ってもらっているので、廃棄していません。その酪農家さんからは牛ふん堆肥をもらうという資源循環ができあがっています。

うちの飼料は酪農家さんからも評判で、私も牧場に見学に行きましたが、ウシたちの食いつきがとても良いようです。飼料を持って牛舎に入ると、ウシが一斉に反応する様子が見られ、嗜好性の高さを実感しました。

CTIアセンドは、下水汚泥肥料の活用など資源循環型事業を通じ、地域活性化を目指している

―農業やウイスキー製造に関して、福島イノベーション・コースト構想推進機構(福島イノベ機構)からはどのような支援を受けてきましたか。

渡邉:
立ち上げ当初は農業参入支援で助けていただきました。農地を探すところでも大変お世話になりましたし、農研機構東北農業研究センターや福島県農業総合センターなどにご紹介いただきました。CTIアセンドを設立する前の試験栽培では、福島イノベ機構の補助金を活用して防護ネットを設置しました。翌年には、相馬市の補助金を活用して電気柵を導入しました。

それ以上にありがたいのは、人とのつながりへの支援です。今取引させてもらっている酪農家さんは地域の自治区長さんからの紹介ですが、そのきっかけを作ってくれたのはイノベ機構や相馬市、福島県の職員さんたちでした。

―現在、御社ではどのような社内体制で、農業やウイスキー造りに取り組んでいるのでしょうか。

渡邉:
今は、農作業からウイスキーの蒸留、商品の発送作業まで、すべての作業を3人で行っています。蒸留技術者の平中翔梧は隣接する伊達市の出身で、以前からウイスキー造りに興味があったところ、たまたま新卒のタイミングで当社の立ち上げを知り入社してくれ、入社後にウイスキー造りの技術を身につけました。

2026年4月に入社した木戸崇太は、建設技研時代の同僚の家族です。彼は以前から農業とウイスキー造りをやってみたいと思っていたそうで、家族から当社の話を聞いてすぐに応募し、大阪から家族で移住してきてくれました。

渡邉さん(真ん中)の左が、木戸崇太さん、右が蒸留技術者の平中翔梧さん

農作業もウイスキー造りも体力のいる仕事なので大変ですが、すごくいい仲間に恵まれました。近所に住む方が手伝いに来てくれることもありますし、差し入れを持ってきてくれるなど、地域の皆さんにもさまざまな形で支えていただいています。

柔らかな甘さがありながら、力強さも感じられるウイスキー

―自分で造ったウイスキーを初めて飲んだときの感想をお聞かせください。

渡邉:
想像よりかなり高品質なウイスキーになったなと感じました。蒸留したばかりで熟成は進んでいませんが、思いのほか力強さがありました。お世話になった酒造メーカーの方にも「すごくいい出来だね」と言っていただいて嬉しかったですね。

―渡邉さんが造るウイスキーのこだわりはどのようなところにありますか。

渡邉:
相馬の土地で育てたトウモロコシとライ麦を主原料に、「誰が飲んでもおいしい」と感じるウイスキーを目指しています。ただ、私自身がピート由来のスモーキーな香りが強いタイプよりも、柔らかな甘みを感じるタイプが好きなので、そのような特徴が表れているかもしれません。トウモロコシを中心に使う点など、製法はバーボンに近く、柔らかな甘さを感じてもらえると思います。

―今後の事業の目標や、将来に向けて取り組みたいことについてお聞かせください。

渡邉:
まずは、事業を黒字化することが最優先の課題です。もともと社内ベンチャーという挑戦的な試みから始まっていますので、人的にも予算的にもミニマムな状態で進めていますが、ポテンシャルとしては今の倍は製造できるはずです。そのため、計画している年間製造量をきちんと達成すること、雇用を確保することなど課題は山積みです。

2025年度はイノシシやサルにトウモロコシを食べられてしまい、予定していた量の原材料を収穫できなかったというトラブルもありました。そういうことを見越して、獣害対策をしたり、生産量を調整したりしていく必要があると思います。

遊休農地での土づくりから原料のトウモロコシ栽培まで自ら手掛け、ウイスキー造りに取り組んでいる

―相馬で事業に挑戦する魅力と、これからこの地域で挑戦する方へのメッセージをお聞かせください。

渡邉:
この地域には、チャレンジしようとしている人を支援してくれるイノベ機構のような組織やさまざまな支援制度があります。実際に事業を始めてみて、そのサポートの手厚さを実感しているところです。こうした支援体制は、新たにこの地域へ移住する方や新規事業に取り組む方にとって、大きな安心につながるのではないでしょうか。

一方で、相馬での事業は、これまで経験したことのない課題に向き合う日々でもあります。さまざまな試行錯誤を重ね、一つひとつ課題を乗り越える中で、事業者としての経験を積んできました。相馬に移住して以来、こうした挑戦の連続ですが、未知の課題に向き合うこと自体が、この事業の面白さでもあると感じています。これから新たな事業に挑戦しようと考えている方にも、日々の試行錯誤を前向きに受け止め、その過程を楽しんでいただきたいと思います。

(取材日:2026年8月26日)

株式会社CTIアセンド/玉野アセンド蒸留所

株式会社CTIアセンドは、福島県相馬市玉野地区にてクラフトウイスキーの製造を行う「玉野アセンド蒸留所」の運営および地域資源循環事業を展開する企業。株式会社建設技術研究所の社内ベンチャーとして2023年1月に設立。廃校となった旧玉野小学校をリノベーションして蒸留所を整備し、遊休農地での原料(トウモロコシやライ麦)栽培や下水汚泥肥料・地域堆肥の循環利用を通じて、地域の復興と活性化に取り組む。

福島イノベーション・コースト構想推進機構による支援:
・2020年度〜 イノベ地域への農業参入支援

Hama Tech Channelとは

「世界を変える、福島のチカラ」のもと、山積する社会課題に立ち向かい、
豊かな未来を切り拓くリーダーとテクノロジーにフォーカス。
「社会を良くする」力強い変革を応援する、福島発・未来共創型メディアです。
ここでは、東日本大震災と原子力災害からの復興を目指す国家プロジェクト
「福島イノベーション・コースト構想」の一環として、
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