油絵「被災地からのメッセージ」展示
伝承館5周年イベントの一つとして、伊藤崇人画伯の油絵「被災地からのメッセージ」が10月4日、お披露目されました。
名古屋市在住の画家、伊藤さんは2011年3月11日の東日本大震災と東京電力福島第一原発事故後、自分ができる復興支援をしたいと考えます。全国から被災地に向けて激励の言葉が寄せられるのを報道で目にする一方、被災した方の思いが伝わっていないと感じました。
そこで、「自分が描く絵に『被災された方の本当のメッセージ』を書き込んでもらい、それを全国の方に伝えたい」と思い立ちます。
2011年夏ごろからF130号サイズ(横194cm×縦162cm)の大作にとりかかり、震災後の「現在」を示す大人と、「未来」を示す子どもを描きました。先が見通せない福島を表すように、大人の目は一度描いたうえで塗りつぶしました。
2011年の冬に福島県の仮設住宅などを訪問。お参りに立ち寄った郡山市開成山大神宮の宮司から絵画制作の趣旨に賛同を得ます。年末年始に開成山大神宮の境内で一週間ほど作品の続きを描き、完成に近づけると同時に、神社を訪れた福島県内外の被災者1,000人以上から、絵に様々なメッセージをマジックで書き込んでもらいました。
被災した方は、伊藤さんに「せきを切ったように」被災体験を話したといいます。対話する中で、震災で家族を失い、孤独になったお年寄りもいました。体験を聴くだけでもつらく、被災した方を思い、さまざまな感情が伊藤さんの胸に迫ります。
震災直後の混沌とした状況下でしか書けないようなメッセージばかりでした。その中でも、「福島が元気になりますように 子どもたちが健康で成長できますように」といった、前向きな言葉が多く書かれたことが印象に残ったといいます。当初の絵にはなかったトルコキキョウの花を、未来を示す子の手に描き加えました。花言葉は「希望」、「感謝」です。
作品は2012年2月に完成し、被災地の声を伝えるため、愛知県や岐阜県、三重県、大阪府、東京都の美術館などで2年間、展示公開した後、福島県に寄贈し、震災と原子力災害を伝える当館での展示につながりました。
お披露目を終えた伊藤さんは「境内で絵を描き進めていた時はとても寒く、皆さんに心配していただきました。被災された方にある意味助けられて完成できました」と当時を振り返りました。そのうえで、「苦しみや悲しみ、不安を表現した作品でしたが、今は少し、福島の被災地にも明かりがさしているように思います。絵にメッセージをくださった被災者の方にお会いして、今のお気持ちを聞いてみたいですね」と話していました。
伊藤さんの油絵「被災地からのメッセージ」は当館1階エントランスホールに常設展示されています。